董和先生に聴く

“熊柳三兄弟”のはなし(Ⅱ)
                              聞き手・(株)人間医学社 大浦純孝 社長


大浦 前回に引きつづいて新しく創られた「熊柳と温熱性の生薬」と「熊柳と寒涼性の生薬」についてお話ししていただくわけですが、まず最初に「熊柳と温熱性の生薬」の説明からお願いします。

董和 はい。これは熊柳、お種人参、蚕砂(さんしゃ)、サネカズラ、乾姜、肉桂(にっき)、仙茅、蜜柑の皮、鵝不食草(がふしょくそう)、大棗(なつめ)の十種類の生薬から構成されています。

大浦 各生薬にはどのような作用があるのですか。

董和 熊柳、お種人参、大棗は、補気(気を補う)作用によって胃腸の働きをよくして気虚(エネルギー不足)に伴う諸症状を改善します。同時に水分代謝を改善する働きもあります。鵝不食草(和名 ときんそう)は辛味がある温性の植物で、寒を発散して鼻を通す働きがあります。蚕砂、蜜柑の皮、サネカズラ、乾姜の四つの生薬は、胃腸を温めて寒を発散させ、気の停滞による腹部のふくれ、脇腹や腹部の痛みなどを改善します。また胃を調えて、湿濁邪気(体内に長時間滞った湿邪)を除く働きもあります。そして、肉桂と仙茅には腎を温めて全身を温める働きがあります。


冷えを伴う症状に

大浦 十種類の生薬のそれぞれの働きについて説明していただきましたが、簡単に「熊柳と温熱性の生薬」の働きを一言で説明すると、どうなりますか。

董和 そうですね。一言で言えば「湿中伏寒証」に用いられるもの、ということができます。体内の水の中に寒気が潜伏している病症、といった意味になります。脾と腎のエネルギー不足が要因となって、五臓六腑、筋肉、関節などが寒邪と湿邪に侵され、脾の働きも悪くなって起こる病気と考えていただくとよいと思います。

大浦 病名でいうと、どのような病気になりますか。

董和 低体温や冷え症、冷え性のカゼ、むくみ、頭痛、めまい、冷えによる腹痛、アトピー性皮膚炎、リウマチ、慢性鼻炎、花粉症など、多くの病気が含まれます。

大浦 かなり幅広く使えるのですね。ただ、これらはすべて冷えに伴って生じた病気なり、症状である、という但し書きがつくわけですね。

董和 ええ。低体温や冷え症などはもちろん冷えそのものですが、むくみ、頭痛、リウマチ、花粉症、アトピー性皮膚炎なども、冷えが明らかな原因となっているタイプに使うという意味と捉えていただくといいと思います。たとえば、頭痛と一口に言っても、高血圧に伴うものもあるでしょうし、ストレスに伴うものとか、さまざまな原因が考えられます。そうしたさまざまな原因の中で、冷えが原因している頭痛に用いるということになります。

大浦 冷えに伴う頭痛には有名な呉茱萸湯という漢方薬がありますが、「熊柳と温熱性の生薬」は呉茱萸湯の代用としても使えるということですか。

董和 はい。「熊柳と温熱性の生薬」は「湿中伏寒証」に用いる漢方系食品です。「陽虚・寒・湿」という三つの原因が関係する病症にすべてお勧めできます。たとえば、漢方薬の再造散、真武湯、人参湯、桂枝人参湯、桂枝加朮附湯、麻黄附子細辛湯、呉茱萸湯、大建中湯、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、安中散などの代用として使っていただけるものと考えています。

大浦 いやー、実に多くの漢方薬の代用になるのですね。漢方薬の場合は、証の立て方に難しいところがあります。その点「熊柳と温熱性の生薬」は、こうした漢方薬の処方選定のような煩わしさがないということですね。

董和 そうです。顔色が蒼白で寒さを嫌う、手足や体幹部、腰などの冷え、疲れ、むくみ、息切れ、めまい、疼痛、下痢といった陽虚の症状、それに寒の症状です。さらに脾胃の働きが失調したために水分代謝障害を起こして生じる体の冷え、重たさ、むくみ、下痢、関節や筋肉の疼痛といった湿の症状などがあれば、どんな病症にも使えます。


再造散

大浦 ところで、先ほど代用できる漢方薬として再造散を最初にあげられましたが、この処方は日本ではほとんど使われていないと思いますが…。

董和 再造散の名前は「人の命が救われる、命を再び造る」というところからきています。頭痛、発熱、首から背中にかけて強くこわばる、悪寒がするが汗が出ない、といった症状があると、下手な医者は発汗剤を何度も使おうとします。しかし、これらの症状は陽気(生命の火)不足のために起こっているのですから、対処法がちがいます。また、季節のことも考慮せずに、懲りずに何度も辛温性(辛味で温性)の強い麻黄や桂枝といった強力な発汗剤で発汗させて治そうとします。こうした誤った治療法によって死亡者まで出しているほどです。というのも、強力な発汗剤を用いても汗が出ないのは、陽気が不足しているために、汗がつくられないということを理解していないからです。

大浦 そういうことは度々あったのですか。

董和 ええ、あったようですね。今でもあるのではないでしょうか。


お腹を温める

大浦 この再造散はカゼ、インフルエンザや感染症の初期に用いられるものですね。それも抵抗力が弱く、発熱反応も強く出ないため、悪寒が強いわりには体温の上昇が軽度で、疲労倦怠感がある、いわゆる虚弱タイプに使われるものと理解しました。それでは「熊柳と温熱性の生薬」との違いを教えていただけますか。

董和 「熊柳と温熱性の生薬」も再造散も、同じように陽気を補い、温めます。各臓器の機能を高める働きもあり、陽虚(エネルギー不足)のカゼなどに効果があります。しかし、「熊柳と温熱性の生薬」には、熊柳とか蜜柑の皮、蚕砂といったものを組み合わせている点が大きく異なっています。

大浦 どのように違ってくるのですか。

董和 これらを組み合わせることで、お腹を温めて寒を発散する働きが高まり、水分代謝や解毒作用がよくなり、「湿中伏寒証」と関係する多くの病症に広範囲に利用できるのです。

大浦 それに対して再造散はどうですか。

董和 再造散は熊柳、蜜柑の皮、蚕砂といった生薬がないため、陽虚体質の風寒性(風邪(ふうじゃ)と寒邪(かんじゃ)が結びついた邪気)のカゼにしか使えません。それに再造散には桂枝、熟附子、羗活、防風、細辛といった辛温性の強いものが配合されているため、長く用いていると陰液(栄養を豊富に含んでいる体液の総称)を損う恐れがあります。

大浦 こうした点でも「熊柳と温熱性の生薬」の成分は優しいですね。

董和 はい。陽虚タイプの方だけでなく、体の冷え、重たさ、むくみ、下痢、関節や筋肉の疼痛などを中心とする病症(寒湿証タイプ)の方にも安心してお使いいただけます。


後鼻漏、鼻炎、花粉症

大浦 カゼの各タイプのうちでクシャミとか薄い鼻水というのは肺経の冷えが関係していますね。「馬鞭草(ばべんそう)などの生薬」はカゼの初期で、鼻やノドがおかしい時にはとても重宝しますが、少し冷やす傾向があるように思います、そこで「馬鞭草などの生薬」プラス「熊柳と温熱性の生薬」という組み合わせにすると、クシャミ、鼻水を伴うカゼの初期にはピッタリだと思いますが、どうでしょうか。

董和 これまでカゼの初期で、吐き気、下痢、腹痛といった胃腸型のカゼの場合は「人参木(にんじんぼく)植物」を、ノドカゼや鼻カゼの場合は「馬鞭草などの生薬」を勧めてきました。しかし、体力が低下した陽虚のカゼには、補気作用の強い「熊柳などの生薬」だけでなく「馬鞭草などの生薬」を併用しないと効かないことがあったのは事実です。そこで今後は、舌の色が薄く、体が重く、普通のカゼ薬ではなかなか治りにくいといった冷え性カゼには「熊柳と温熱性の生薬」あるいは「熊柳と温熱性の生薬」プラス「馬鞭草などの生薬」をお勧めしたいと考えています。

大浦 そうですか。この間も後鼻漏(鼻汁が本来の前に出ずに、後ろというかノドの方に流れ落ちる)に長年悩まされている高齢の男性の人に「熊柳と温熱性の生薬」プラス「馬鞭草などの生薬」をお勧めして大変喜ばれました。慢性の鼻づまりとか後鼻漏といった症状には、この組み合わせはベストではないかと思っています。

董和 それは良かったです。急性鼻炎とか蓄膿症で、濃い色の膿のような鼻汁が出る人は、舌の色が赤い傾向があります。こういった場合には「馬鞭草などの生薬」、または「馬鞭草などの生薬」プラス「苦地胆植物」の組み合わせがお勧めです。しかし、後鼻漏や花粉症、慢性鼻炎は低体温の人や、気虚・陽虚体質の人に起こりやすく、舌の色が薄い人が多いようです。

大浦 そういった方には、「馬鞭草などの生薬」プラス「熊柳などの生薬」の組み合わせでいいのですか。

董和 それでもいいのですが、今後は「熊柳と温熱性の生薬」を単独か、あるいは「馬鞭草などの生薬」をプラスして使っていただくことを是非お勧めしたいと思います。


冷えによる下痢や便秘

大浦 ところで、「熊柳と温熱性の生薬」は体を温める働きが強いということですが、胃腸を温めるものが数多く組み合わされていますね。ということは、冷えて下痢するという症状に、漢方薬でいえば人参湯とか真武湯が適応する場合にも使えるわけですね。

董和 はい。私たち人間の体温は通常36.5℃くらいであり、これは体内の酵素が最も活性化されて、よく働く温度です。俗に「腹を冷やすと下痢になる」と言われます。その原因の一つとして、冷たいものの過飲などによって消化管内の温度が低下し、消化酵素の働きが鈍って消化作用が阻害されることが挙げられます。こういう病症に対しても熊柳と温熱性の生薬」は有効であるといえます。

大浦 では、逆に冷えて便秘するという人にはどうでしょう。下剤を長期に使っている人では、お腹が冷えてしまって、腸の蠕動運動に必要なエネルギーが十分に産生できないために、便意をもよおさないことがあります。下剤を長期に使っていると腸が伸びきってしまって、蠕動運動がスムーズに行なわれないといわれていますし、そもそも下剤というものは寒性というか、体を冷やすものが多いですね。

董和 そういう例は多いと思います。お腹が冷えて便が出ないという症状の方はけっこう多いと思います。こういうタイプの便秘は、大黄とかセンナだけを使っても一向に出ないものです。こういうときには漢方薬の温脾湯といって、大黄に附子とか乾姜、人参といった温剤を配合したものを使わないと効きません。

大浦 以前に先生から温脾湯を教えていただいて、腎不全の方の便秘や、長年にわたって下剤を用いてきたために効かなくなった人たちに服用していただき、大変喜ばれた経験があります。この温脾湯は煎じ薬しかありませんが、その代用となるものはないでしょうか。

董和 温脾湯の代用としては「熊柳と温熱性の生薬」プラス「土大黄(つちだいおう)植物」を考えています。「熊柳と温熱性の生薬」でお腹を温めて腸管の働きを整え、「土大黄植物」によって排便を促すわけです。「土大黄植物」でなくても、市販の大黄甘草湯とか麻子仁丸を使っていただいてもいいと思います。

大浦 長年にわたって下剤を使用している人や、冷え性の便秘の人はかなり多いと思います。

董和 そういう方には「熊柳と温熱性の生薬」を、排便促進作用のあるものと併用していただくことをお勧めします。


ステロイド剤による低体温

大浦 ところで、最近では低体温のことがよく話題になっていますね。ガンをはじめとして、ウツ病やアレルギー疾患、糖尿病など、多くの病気に低体温が関係していると考えられています。その原因としては体を動かさなくなったこととか、冷たいものの摂り過ぎもありますが、薬の副作用としての血流障害に由来する低体温もかなりあるのではないかと想像しています。

董和 そうですね。薬というか、化学物質は体にとってストレスとなりますから、血流障害を引き起こします。特に有名なステロイド剤は、長年にわたって使い続けている人では極端な冷えがもたらされていることが、その舌診によって確認されます。こうした副作用による冷えにも「熊柳と温熱性の生薬」が役立つ場合があるのではないでしょうか。

大浦 本当にそう思います。ステロイド剤は切れ味が鋭いだけに、多くの厄介な病気に使われていますが、それは同時に極端な冷えをもたらすことを知っておいて欲しいですね。こういう時に、「熊柳と温熱性の生薬」が必要とされるわけですね。
次回には「熊柳と寒涼性の生薬」の使い方などについて教えていただきたいと思います。

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