董和先生に聴く

“熊柳三兄弟”のはなし(Ⅲ)
                              聞き手・(株)人間医学社 大浦純孝 社長

大浦 前回は新しく創られた「熊柳と温熱性の生薬」について説明していただきましたが、今回は「熊柳と寒涼性の生薬」について教えていただきたいと思います。

董和 これは熊柳、お種人参、紅景天(こうけいてん)、蚕砂(さんしゃ)、胡黄連(こおうれん)、山梔子(くちなし)、柴胡の 葉、沙参(しゃじん)、蜜柑の皮の九種類の生薬から構成されています。その適応症としては、湿熱濁毒が排出できなくて起こる病症です。私たちは飲食物を消 化吸収することで精気(生命の源である力)を生み出しています。この精気は胃腸の働きが低下すると、肺・心・頭部へと送ることができなくなります。すると 水分代謝が悪くなり、体内に熱が生じます。この状態が湿熱濁毒で「熊柳と寒涼性の生薬」はこれが排出できなくなって起こる病気に用います。

大浦 それぞれの生薬の働きはどのようになりますか。

董和 熊柳、お種人参、紅景天、沙参は胃腸の働きを補って体質を強化し、利尿作用によって水分代謝を改善する働きがあります。 柴胡の葉には陽気を上昇、発散させる働きがあります。また蚕砂は柴胡の葉の作用を助け、和胃化湿(胃の働きを調和し、体内に滞った湿濁邪気を除く)の働き があり、蜜柑の皮と協同で醒脾利湿(胃腸の働きを高めて飲食物を消化して全身に運び、水分代謝を改善して、むくみ、下痢、食欲不振などを改善する)の効果 があります。
さらに胡黄連、山梔子には、湿邪の長期停滞によって内熱を生じ病的な状態となったものを体の下部へ下ろし、おしっこに出す働きがあります。


湿熱濁毒の排出

大浦 漢方には「気・血・水」という考えがありますね。先生は“熊柳三兄弟” をそれぞれに対応するものとして創られたとのことですが、今回の「熊柳と寒涼性の生薬」は水に働くものですね。

董和 ええ。気に働くものとしては「熊柳と温熱性の生薬」、血に働くものとしては「熊柳などの生薬」があり、「熊柳と寒涼性の生薬」は水に働くものとして考案しました。

大浦 水に働くといっても、単なる利尿剤ではないと思いますが、その点はどうなんでしょうか。

董和 それぞれの生薬の働きを述べましたが、これだけを聞いても全体像はつかめないと思います。

大浦 どのように考えるとわかりやすいですか。

董和 次のようにイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。例えば、コップの水をストローで吸い上げて、吸い口を指で フタしてやると、ストローで吸い上げた水は落ちずに、そのままストロー内にとどまっています。ところが、この指をずらすとすぐにストロー内の水は流れ落ち ます。

大浦 「熊柳と寒涼性の生薬」の作用もこれと同じような仕組みと考えてよいのですか。

董和 はい。ストローで水を吸って、吸い口を指でフタをした状態が、胃腸の働きが弱いために精気(飲食物を消化吸収することに より生じる)を肺へ送ることができない状態と考えてください。それを改善すれば、ストローから水がすぐに流れ落ちるように湿熱濁毒が排出できる、というこ とです。


胡 黄 連

大浦 面白いたとえですね。よくわかりました。ところで、構成生薬の中に胡黄連が含まれていますね。以前、先生に「アトピー性皮膚炎でどうしても痒みがとれないといった場合に、何がいいですか」と質問したことがあります。

董和 そうでしたね。

大浦 その時「胡黄連を煎じて飲ませてみては」というアドバイスをいただきました。早速、数人の方に試してみたところ、喜んで もらった経験があります。これまで痒みには「地膚子植物」が役立っていたのですが、中にはこれで改善しない例があります。こういうときに胡黄連が有効なこ とがあるわけですね。

董和 ええ。先ほども説明しましたように、「熊柳と寒涼性の生薬」は胃腸の働きが弱いために、飲食物から生まれる精気を肺へ送 ることができません。そのため水分代謝が悪くなって化熱(熱に変わる)し、病的な状態になります。この生薬はそういう人に用いていただくために開発したも のです。

大浦 アトピー性皮膚炎や湿疹、慢性蕁麻疹に悩まされている人たちは、こうしたことが原因しているのですか。

董和 そうです。アトピー性皮膚炎の方は根本的には陽気(生命の火)不足が関わっています。表面的には皮膚の炎症と痒みがみられますが、その本治法(根本療法)としては胃腸の働きを助け、陽気を上昇させ、水分の代謝や化熱した状態を改善しなければならないと思います。


皮膚病の対策

大浦 「熊柳と寒涼性の生薬」は本治法に対するものと、皮膚表面に現われた熱症状を改善するもの(胡黄連や山梔子など)の両方を組み合わされているわけですね。
皮膚疾患に対して、具体的にはどのような使い方を勧められているのですか。

董和 たとえば、アトピー性皮膚炎には「熊柳と寒涼性の生薬」と「大青葉植物」の組み合わせか、「熊柳と寒涼性の生薬」と「紫霊芝などの生薬」(霊芝の胞子でもよい)の組み合わせを勧めています。
湿疹や蕁麻疹、老人性掻痒症には「熊柳と寒涼性の生薬」を単独か、あるいは「熊柳と寒涼性の生薬」と「地膚子植物」、または「熊柳と寒涼性の生薬」と「大青葉植物」の組み合わせがよいでしょう。
脂漏性湿疹には「熊柳と寒涼性の生薬」を単独か、あるいは「熊柳と寒涼性の生薬」と「土大黄植物」、または「熊柳と寒涼性の生薬」と「大青葉植物」の組み合わせをお勧めします。
接触性皮膚炎は「熊柳と寒涼性の生薬」単独、あるいは「地膚子植物」の単独、またはこの二つの組み合わせが勧められます。

大浦 そうですか。ほとんどの皮膚病に「熊柳と寒涼性の生薬」は勧められるわけですね。ということは、先生は皮膚病というものは胃腸の働きが悪いために陽気が上昇できず、風邪(ふうじゃ)や湿邪(しつじゃ)がたまって化熱したものと考えられているわけですか。

董和 ええ、そのように考えています。これから多くの人にお勧めして、そのことを検証していきたいと思っています。


夏 バ テ

大浦 では、皮膚病以外の病気については如何でしょうか。第一回目のお話の中で「熊柳と寒涼性の生薬」は暑がり体質の方に適するということでしたが、夏バテにはどうですか。

董和 夏バテには大きく分けて、気陰虚型と気虚湿熱型の二種類があります。気陰虚型というのは舌の肉の色が赤くて、苔が少ない のが特徴です。口が渇き、汗をかき、体力が無く、脈が弱いといった症状があります。この型には漢方薬では生脈散が使われますが、その代用として「紅景天植 物」をお勧めします。

大浦 もう一つの気虚湿熱型はどのような症状ですか。

董和 口が渇く、汗をかく、体力が無い、脈が弱いといった点は気陰虚型と共通しています。異なるのは、胃腸障害があったり、 頭・体・手足が重い、舌には白または黄色い苔が多くみられるなどの点です。こういう場合には「熊柳と寒涼性の生薬」が勧められます。気虚湿熱型にまちがっ て生脈散を使うと、体内の水をますます増やし、湿熱症状がひどくなり病状を悪化させますので注意が必要です。

大浦 それは注意しなければいけませんね。よく舌を観察する必要があるわけですね。気虚湿熱型の症状として胃腸障害をあげられましたが、「熊柳と寒涼性の生薬」は胃腸障害にも用いられるのでしょうか。

董和 はい。食欲不振やお腹が張るといった症状がある、また下痢などで舌に白や黄色の苔が多くみられるようであれば使えます。


汗が異常に出る

大浦 ところで、暑がり体質の典型的な病気となると、メタボリック症候群が思い浮かびますが、メタボにはどうでしょうか。

董和 メタボに属する病気といえば糖尿病とか高脂血症がありますが、もともとメタボリックシンドロームという意味は代謝異常症 候群ということです。代謝病の多くは暑がり体質の人にみられます。「熊柳と寒涼性の生薬」は、舌に白い苔や黄色い苔が多くみられれば、痛風をはじめ糖尿 病、高脂血症、肥満など多くの代謝病にお勧めできます。

大浦 漢方の考え方にひきよせていえば、メタボは食べ過ぎと運動不足が元になっていますから、それによって胃腸の働きが弱って、陽気が増えず、そために代謝障害が生じると考えるわけですね。
ところで、暑がり体質の人は汗かきというイメージもありますが、異常に汗をかく人もいます。こういう人には「熊柳と寒涼性の生薬」は有効なのでしょうか。

董和 はい。漢方の証の中に自汗(じかん)というのがあります。これは異常に汗をかくことを指します。暑さ寒さに関係なく、少し動くと出てくる汗です。いつも汗が流れ出て、動くとさらにひどく汗が出ます。

大浦 どのような原因が考えられるのですか。

董和 自汗は気虚(生命エネルギーの不足)が原因と考えられています。
「熊柳と寒涼性の生薬」は、気虚に湿熱郁蒸(湿邪と熱邪が混在して蒸し、熱気が頭部や顔面部に上昇して現われる病的な変化)を伴ったときに出る汗に用います。舌に白い苔や黄色い苔があることを確認した上で使っていただくとよいと思います。

大浦 異常な汗といえば、更年期の女性にしばしばみられるホットフラッシュの時の汗もありますが、こういう場合も利用できるわけですか。

董和 はい。更年期障害はさまざまな不定愁訴を伴います。肩こり、頭痛、頭重、耳鳴り、顔色が悪い、体が重い、無力、消化不 良、関節が痛い、浮腫、汗をよくかく、微熱、のぼせ、ほてり、軟便、頻尿などなど。これらの症状に白や黄色の舌苔があれば「熊柳と寒涼性の生薬」が利用で きます。


動悸と不眠

大浦 なるほど。その他に不定愁訴の症状に動悸とか不眠があります。最近はこういう症状を訴える女性が多いように思いますが、それにも役立つのでしょうね。

董和 はい。これは弊社の製品を取り扱っていただいている薬局の先生からの報告ですが、とてもよい症例がありましたので、それを紹介させていただきます。
患者さんは四十歳代の女性で、主訴は不眠症です。毎晩、眠れずに困っておられ、床についても目が冴えてしまい、なぜか息苦しく、心臓がドキドキし、鼓動が 聞こえたそうです。少しウトウトしても悪夢でうなされ、ジェットコースターに乗った時のように胃が上に突き上げられている感じがし、吐き気があります。こ れらの症状は、年末にあれこれと仕事をし過ぎて、体がオーバーヒート気味になってから現われてきたようです。動悸や胸苦しさは、夕方になって疲れがたまっ てきた時にも起こるようです。また疲れると微熱が出ることがよくあり、スーパーなどで買い物を長時間していると頭がフラフラして、冷や汗が出て、胸苦し く、動悸が起こったそうです。
舌には歯型がついており、舌先と舌縁部が真っ赤で、脈は速かったそうです。

大浦 その方に「熊柳と寒涼性の生薬」を使われたわけですね。結果はどうでしたか。

董和 はい。薬局の先生は、この女性に「熊柳と寒涼性の生薬」を一日に四回、通常量を服用するように勧められました。すると間もなく、胸がスーッと楽になり、午後11時に寝て、翌朝6時まで一度も目覚めることなく熟睡できるようになったそうです。


舌で判断

大浦 それはよかったですね。まさに「熊柳と寒涼性の生薬」がピッタリの症例だったわけですね。

董和 ええ。薬局の先生の説明によると、この女性はもともと胃腸が虚弱で気血が不足しているために、大きなストレスがかかった り、少し無理をするとオーバーヒートしてしまう体質のようです。動悸や胸苦しさ、舌先が赤いといった症状は、胃腸の働きが悪いために、痰という病理産物が たまり、それが熱されて心(しん)の働きを乱した結果と判断されたそうです。

大浦 心の働きの一つに安心して眠らせる作用がありますね。

董和 はい。心の働きが乱れれば熟睡できませんし、このような状態で眠っても悪夢にうなされたりします。また気が突き上げて吐 き気が起こったりもします。この女性の舌の状態から判断しますと、歯型があるのは水毒の証であり、舌先と舌縁部が真っ赤なのは熱の証、それも心と肝の熱証 です。この方の諸症状を考慮しますと、「熊柳と寒涼性の生薬」はよい選択だったと思います。ただ、「熊柳と寒涼性の生薬」が適する舌の色は真っ赤ではな く、淡紅色か、やや赤いといった程度のものではありますが…。

大浦 舌の肉の赤味が強くて、白または黄色の苔があれば湿熱証になるわけですね。

董和 はい。「熊柳と寒涼性の生薬」は気虚(胃腸の働きが弱いことによる)を改善しますから、舌の赤味が薄くなるわけです。

大浦 まあ、このあたりの違いは微妙なところがありますから、できれば舌のカラー写真をデジカメなどで撮って送っていただくと判断がつきやすいですね。
いやー、いろいろと教えていただいてありがとうございました。「熊柳と温熱性の生薬」「熊柳と寒涼性の生薬」と三回にわたって教えていただきましたが、今 後、使用例が増えていく中でさまざまな使い方が出てくるものと思います。その時にはまた熊柳三兄弟についてのお話をいただければと思います。
本日はどうもありがとうございました。
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