董和先生に聴く

 夏バテについて
                                 聞き手・大浦純孝 社 長

大浦 今年の夏は全国的に節電が叫ばれ、冷房の設定温度も28度にしましょう、と呼びかけています。電力需要が最大に達するとみられる八月は、とくに暑さ対策が例年以上に必要になると思います。
そこで先生に、漢方による暑さ対策を教えていただこうと思います。

董和 はい。三月十一日以降、節電対策商品がよく売れているようですね。中国の広州とか南の方は、日本以上に暑くてむしむしします。中国では日本のようにクーラーの普及率はまだまだ高くないですから、こういう地域では日本よりも暑さは厳しいのですが、みんな元気です。

大浦 そうですね。中国には何度か夏休みに先生に案内してもらいましたが、広州にしても上海にしても、とても暑くてむしむししていましたね。でも、中国の人は声が大きいですし、ワイワイ話しながら汗を拭きつつよく食べるので、いつもパワフルな人達だなあ、と感心していました。それに比べれば、日本人は総じて大人しいですね。

董和 日本人はまじめ過ぎるかもしれませんね。中国人と日本人が何かのきっかけで口論したとすると、おそらく日本人は中国人にはかなわないと思います。

大浦 そうでしょうね。まず声の大きさと、しゃべる言葉の速さと量に圧倒されるという感じです。
ところで以前、世界遺産の張家界(中国湖南省)の休憩所で休んだ時に、人間医学社で取り扱っている健康食品の「古代食くろご」とか「不老仙」に似た粉末をお湯に溶かして飲みました。あれは長時間暑い中を歩くようなときの飲料としては、とても胃腸にやさしく、疲労回復の働きが強いように感じました。

董和 松の実などが入ったもので、少し甘味がありましたね。


「人参木などの生薬」

大浦
 そうです。その時にドクダミの茎の部分を湯がいたものが一緒に出てきましたが、なかなか乙な味でした。ドクダミは先生が創られた「人参木などの生薬」にも含まれていますが、これは夏バテにも使われるのですね。

董和 はい。「人参木などの生薬」はクマツヅラ科のニンジンボクの葉に、ドクダミと板藍根を組み合わせたものです。ニンジンボクは袪風解毒(風邪を取り除き、体に害を与える物質を除去する)と調気和胃(胃の働きを整える)の効果があることから、胃腸型の風邪による悪寒、発熱、嘔吐、下痢、腹痛などによく使われます。また、熱中症や夏バテの予防や治療にもよく用いられます。最近では、車や船などの乗り物酔い、お酒の酔いにも効果があることがわかりました。

大浦 確かに「人参木などの生薬」は、車とか船、飛行機に乗る30分ほど前に摂ると乗り物酔いの予防になりますね。

董和 私も車に乗る前にはこれを多めに食べています。以前は車に乗ると酔っていましたが、今ではまったく酔わなくなりました。
「人参木などの生薬」の中のドクダミは辛涼性(辛くてやや冷やす性質)の植物で、清熱解毒(熱を取り毒を下ろす)、利尿消腫(余分な水分を排泄し、むくみを改善する)の妙薬です。和名は解毒作用が強いことから「毒矯み」といわれています。上気道感染症やノド風邪、肺炎、腸炎の下痢、夏風邪、中耳炎、蓄膿症、腫れ物、湿疹などに用いられています。

大浦 板藍根にはどのような作用があるのですか。

董和 これはアブラナ科の菘藍の根で、清熱解毒の作用があり、ウイルス感染症や扁桃腺炎などの細菌感染症によく用いられます。


胃腸型の風邪

大浦 先生には以前、「人参木などの生薬」は暑気あたりに対するベースになる製品だと教えてもらったことがあります。体内は冷えて、体表面は暑いという場合などに用いると聞きましたが、どうなんでしょう。

董和 ええ。夏は冷たい物や果物を摂る機会が多く、これらは体内を冷やしやすいものです。その上、外気の湿度と温度が高いため、体表面に熱がたまりやすくなります。こういう状況では食欲も低下し、胃酸による殺菌も低下しますから、食べ物にもあたりやすくなります。食欲がないと、体力はつかないですし、気力も湧いてきません。こういう状況が暑気あたりに相当するわけですが、これには「人参木などの生薬」が勧められます。また、むかつきやゲップといった逆流的な症状を伴う場合は「人参木などの生薬」に「鬼菊植物」をプラスされるとよいでしょう。

大浦 そうですか。「人参木などの生薬」は胃腸型の風邪によく利用していただいていますが、食あたりにもいいんですね。

董和 はい。胃腸の働きが思わしくないと、病原性微生物などの侵入をブロックできずに食あたりを起こします。しかし、胃腸の働きがよければ腸管粘膜のバリア機能が維持されて、たとえ病原性微生物が食べ物から摂り込まれても、速やかに排出されます。しかし、冷たい物を摂り過ぎたり、冷房に当たり過ぎたりすると胃腸の働きが弱まり、免疫力が落ちてしまいます。こういう状況下でウイルス感染などがあると、胃腸型の風邪に罹りやすくなります。


「熊柳と寒涼性の生薬」

大浦 夏バテではノドが渇いてよく水分を摂るため食欲不振を引き起こし、軟便、下痢気味になる人がいますね。こういう人にも「人参木などの生薬」でいいのですね。

董和 そういう場合は「熊柳と寒涼性の生薬」の方がいいと思います。水分を過剰に摂るため食欲不振になり、軟便、下痢気味になったり、汗を異常にかいたり、口が渇いたり、手足が無力になったり、顔がほてったりといった症状を訴える人がいますが、これは一種の水毒症状に相当します。
こういう症状で舌にネバネバした苔があるときは「熊柳と寒涼性の生薬」が適しています。また、夏風邪を引いて、いつまでも微熱が続くことがありますが、こういう人でネバネバした舌苔があれば「熊柳と寒涼性の生薬」が有効です。
日本人は冷たい物をよく摂りますから、蒸し暑い環境で仕事をされている方の熱中症や夏バテの予防に、さらには暑さに対しての抵抗力を強める目的で「熊柳と寒涼性の生薬」を利用していただきたいと思います。


「紅景天などの生薬」

大浦 確かに日本人は必要以上に水分、それも冷たい水分を摂り過ぎるところがありますね。むしろ暑い夏こそ、温かい白湯などをゆっくりと味わいながら飲むようにした方が疲れにくいのですが、つい口当たりのいい氷水や清涼飲料水、ビールなどに手が伸びてしまうのでしょう。
夏バテの症状の一つに心肺系の弱りというか、息切れを訴える人も多いと思います。心臓が弱っている人は夏が辛いとよく言われますが、こういう場合はどのようなものを勧められますか。

董和 はい。夏バテを訴える人の中には呼吸困難、息切れを主訴とする人がいます。こういう人の舌を見ると、苔が少なくて乾燥気味のことが多いです。
漢方薬の一つに生脈散という処方があります。これは炎暑によって疲れ、汗が多く、口が乾き、脈が細くて弱いといった症状に用いられる処方です。熱中症の脱水症状にも使われています。
もう一つ復脈湯と呼ばれ、心・肺の慢性的な疾患の気・血・陰・陽の不足に働く漢方薬があります。心肺機能の低下が進んで脈が結滞したり、動悸、息切れといった心不全症状に用いられる処方です。また、空咳や喀血といった虚労性の肺疾患にも用いられます。この生脈散と復脈湯の働きに着目して創ったのが「紅景天などの生薬」です。

大浦 どのような生薬を組み合わせて創られたのですか。

董和 これは紅景天(こうけいてん)、冬虫夏草、玉竹(ぎょくちく)、お種人参、山茱萸(さんしゅゆ)、沙参(しゃじん)の六種類の生薬から成ります。主材の紅景天はベンケイソウ科の植物です。これには抗酸化、抗炎症、抗ウイルス、抗ウツ、抗ストレス、抗腫瘍、さらに免疫賦活、鎮痛や鎮静など様々な作用があります。その特徴を一言でいうとすれば、アダプトゲン作用になります。この働きは人体の恒常性(ホメオスタシス)の維持にあります。具体的には、環境の変化に対する適応能力をアップさせたり、抗ストレス的に働いたり、病気になった体を健康体に戻したり正常化したりする働きを指しています。アダプトゲン作用を持った植物としては、他にお種人参やエゾウコギなどがあります。
大浦 霊芝もそうですね。必要なところにだけ働いて、必要でないところには働かないため、非常に安全性が高くて使いやすいと理解していますが、紅景天にもそういう働きがあるのですね。

董和 そうです。また「紅景天などの生薬」の冬虫夏草は、古くから中国では不老不死、強壮の妙薬といわれ、薬酒や薬膳料理などにも使われてきました。肺・腎経に働き、補肺腎(肺と腎の機能を高める)、益精気(気を補充する)、止咳、化痰(体内に停留した水分を除去する)などの働きがあります。そのため腎不全、頻尿、尿漏れ、肺気腫、心肺機能低下、お年寄りの不眠症、自然治癒力の低下、慢性肝炎などに利用されています。

大浦 紅景天と冬虫夏草が組み合わされていると、心肺機能が低下した人には願ってもないものですね。実際、心不全や肺気腫の人で、舌の苔が少なく乾燥気味の人に「紅景天などの生薬」を食べてもらうと、確かにとても効果があることがわかります。

董和 そうですね。動悸や不整脈、息切れ、空咳、肺気腫などにはとてもよいものだと思っています。また、袪暑剤の生脈散より効果は優れていると思いますから、夏バテにも利用していただく機会は多いと思います。

大浦 「人参木などの生薬」や「熊柳と寒涼性の生薬」や「紅景天などの生薬」といった漢方系の食品があると、暑い夏に不快な症状が出たとしても安心ですね。
本日はどうもありがとうございました。
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