董和先生に聴く
不妊症・更年期障害(上)
聞き手:大浦純孝 社長


大浦 日本では少子化が問題になっています。仕事や経済的な事情で生めない人もあるでしょうが、肉体的な理由で生めない人も増えているようです。漢方では不妊をどう見ているのでしょうか。

董和 結婚して同居しており、夫の生殖機能は正常で、避妊処置をしていないのに二年以上妊娠しないものを、中国では「原発性不妊」といいます。一方、一度は妊娠、流産などの履歴があって、その後、特に避妊をしていないのに二年以上妊娠しないものを「継発性不妊」と呼んでいます。

現代医学的には、輸卵管の炎症や狭窄などが原因で起こる輸卵管性不妊、卵巣機能の異常が原因で起こる卵巣性不妊、生殖免疫異常によって起こる免疫性不妊などに分けられています。

大浦 漢方的には不妊の原因は何でしょうか。

董和 主として二つあります。一つは腎精の不足で、もう一つは瘀血です。腎精は腎気とも呼ばれますが、要するに生命の根源的な力、生命力をいいます。

これが低下すると不妊の原因になります。瘀血は古血で、滞って生理的機能を果たさなくなった血液を指します。

大浦 そうした考えは古くからあるのでしょうか。

董和 今から約1700年前に書かれた『黄帝内経』という漢方の最初の専門書の「素問・上古天真論篇」には、男女それぞれの発育の段階が述べられています。

この書は、黄帝の質問に岐伯が答えるという形式で書かれています。
なお、上古とは人類の生活がまだごく初期の段階にあった頃。
天真とは親から先天的に与えられた「真元」のことで、腎気、精気と同じです。


女性は七歳ごとに年をとる

まず女性(表1)ですが、漢方では女性は七年ごとに発育の段階があるとされています。

〈表1〉女子

黄帝曰く:人は、老いると子を産めなくなる。精力が衰弱した為か、それとも人体の生・長・衰・老の自然律の変化からきたものか。

岐伯曰く:普通の場合、女子は七年ごとにひとつの発育の段階がある。

女子七歳、腎氣が旺盛になり、歯生え替わり髪のびる。

二七(14歳)、生殖機能に促進作用がある"天癸"という物質が成熟し、その機能を発揮して任脈が通り、太衝脈が盛んになり、生理が定期的に来潮し、生育の能力が備えられる。

三七(21歳)、腎氣がさらに充満し、故に真牙(親知らず)が生え身長も最大限まで延びた。

四七(28歳)、筋骨・筋肉が堅くなり、髪が長く極まりて、体の発育も最高峰に至る。

五七(35歳)、陽明脈が衰え始め、顔やつれが始まり、髪は堕ち始める。

六七(42歳)、三陽の脈が衰えることによって、顔がやつれ、白髪が目立ち始める。

七七(49歳)、任脈が虚して、太衝脈が衰えて、天癸が尽きて、地の道通わずして(閉経)、故に形壊れて(体が老衰したため)子を産む能力がなくなる。

すなわち七歳で腎気が旺盛になり、歯が生え替わり、髪が伸びます。十四歳で「天癸(てんき)」が成熟し、生理が始まり、生殖能力が備わってきます。

大浦 天癸をもう少しわかりやすく説明してください。

董和 腎は、精を蔵す、生長・発育・生殖を主る、骨を主る、水液を主るなど、いろいろな働きをしていますが、このうち特に腎の生殖機能を指して天癸といいます。

天癸はその下の任脈、衝脈を管理し、これらが妊娠を統括しています。

大浦 今の子どもは十二歳くらいで初潮を迎えます。

董和 今は栄養状態が良くなり、発育・成長が早くなっており、昔より早く生殖年齢に達していると思いますが、昔は二十一~二十八歳くらいが女の最盛期だったと思われます。

大浦 二十一歳で真牙(親知らず)が生えるとありますが、親知らずは腎気と関係があるのですか。

董和 ええ。親知らずは腎気が充満した証として生えてきます。発育の良くない人は二十一歳になっても生えてこないと思います。親知らずが生えてくるのは、腎気が良い状態にあることを示しています。

大浦 これをピークとして、三十五歳以後は衰えていくわけですが、「陽明脈」というのは?

董和 これは最も気血の力が旺盛な経絡です。これがまず衰えはじめるため、顔や頭髪などに老化が出はじめます。

次いで四十二歳ごろから上半身の経絡も衰えだすので、顔のやつれや頭の抜け毛が目立つようになります。

大浦 そして最後に腎気が衰え、生殖能力も衰退していく?

董和 先に、腎気→天癸→任脈・衝脈の順に腎の働きが発揮されていくといいましたが、これが衰えるときは逆に任脈・衝脈が衰え、天癸が尽き、腎気が衰えて、閉経し、妊娠能力もなくなっていきます。

大浦 大昔と今ではだいぶん状況が違うと思いますが…。

董和 そうですね。現代は環境、生活、栄養など、全ての面で大きく違います。今では五十歳を過ぎて妊娠、出産する女性もありますから、これはあくまでも一つの目安として考えてください。ただ、個々の年齢はともかく、成長~衰退の流れには共通するものがあると思います。


男性は八歳ごとに年をとる

〈表2〉男子

丈夫八歳にて、腎氣が充実し始め、髮がのびて齒も生え替わる。

二八(16歳)、腎氣が盛んになり、生殖機能に促進作用がある"天癸"という物質が成熟し、その機能を発揮し精氣溢れ出て、体に陰陽が和し、故に子をつくる能力を有する。

三八(24歳)、腎氣が充満し、筋骨が勁強し、故に真牙(親知らず)が生え身長は最大限まで延びた。

四八(32歳)、筋骨がさらに強壮になり、肌肉が満ちて充実している。体の発育も最高峰に至る。

五八(40歳)、腎氣が衰え始め、髮が墜ち、齒が枯れる。

六八(48歳)、陽氣の衰えが始まり、それによって顔はやつれ、髮鬢まだらになる。

七八(56歳)、肝氣が衰えて、筋の動きが遅くなり、天癸が衰弱になり、腎精も少なくなり、からだの形に老化の象が現れてくる。

八八(64歳)、腎気が非常に衰え、齒も髮もぬけ去る。腎というものは水を主り、五藏六腑が受ける精を藏し、故に五藏の精が盛んであれば、腎精も充実する。今、五藏が皆衰え、筋骨が解けて堕ち、腎精も衰弱し天癸が尽きる。

故に髮鬢が白く、身体が重だるく、歩行が不正になり、生殖力が自然になくなる。

大浦 では、男性はどのようになっていますか。

董和 男性は女性より少し発育がゆっくりで、八年ごとに発育の段階があるとされています(表2)。最初の「丈夫」というのは男性のことです。男性は女性より発育がゆっくりですが、成長、発育してピークに達し、やがて衰えはじめて、老化していく、その段階ごとの変化は男も女も似通っているといえます。

大浦 女性は七の倍数、男性は八の倍数で発育の段階があるというのは、どのようにして割り出されたものでしょうか。

董和 昔は、今のように科学も器械も発達していませんでした。しかし、観察力は優れていたと思います。長い経験の中から、そういう数字を割り出したのだと思います。

大浦 こうした変化は「腎」だけの働きによるものでしょうか。

董和 腎だけではありませんが、腎の働きは非常に大きいです。

八八(64歳)のところに記されていますが、腎は五臓六腑が受ける精を蔵しています。ですから、五臓の精が盛んであれば腎精も充実します。逆に、五臓の働きが衰えると腎精も衰退することになります。腎精は五臓六腑と深く関わっています。

以前にも言いましたが、私たちは親から「先天の精」を受けて生まれてきます。これが腎精です。これは生まれでた後に使うと減ります。これを補充するのが「後天の精」(水穀の気+清気)です。水穀の気は脾胃で作られ、清気は肺で作られます。したがって腎精は、これらの臓腑とは特に関わりが深いわけです。

大浦 いずれにしても、不妊症の対策としては腎精、腎気を旺盛にしなければならないということですね。

董和 ええ。腎精が旺盛でないと妊娠は難しいです。これは男女ともに大切です。

特に女性は「血」(腎陰)と関係が深く、これが不足すると卵巣や子宮の発育がわるく、排卵しにくい。排卵しても受精、着床しにくく、妊娠しても胎児の発育がよくないことが多い。女性では腎精が「血」に変わり、これが生理、妊娠、胎児の発育、母乳などの元になります。

大浦 日本の漢方では、不妊と腎精のことはあまり強調しませんね。

董和 そのようですね。不妊に対してはまず補腎薬ですが、日本で不妊に良いといわれる処方で、補腎作用のあるものはほとんどありません。男性は「血」より「気」と関係が深く、男性の不妊の原因として精子数の不足や精子の運動不足などがありますが、これも腎気の不足が関係しています。

とはいえ、気でも血でも、元はいっしょで腎精です。だから、男性でも女性でも、不妊には補腎法が大切なのです。


女性の最重要物質

大浦 女性にとって「血」は最も重要な物質ということになりますね。

董和 ええ。漢方では「女子、以血為本、以血為用」といわれます。すなわち、女性の一生は血が身の根本となり、一生血にまつわり、頼るものである、と。また、中国の古い『校注婦人良方』という書には「血者、………五臓を和調し、六腑を濡養する。血は、男子では精に変わるが、婦人は上部では乳汁となり、下部では血海となる」とあります。

大浦 ちょっと難しいですが、女性には「血」が大事だということはわかります。

董和 さらに続けて、「血の充盈は主に肝、脾、腎の機能を旺盛にする。肝は蔵血之臓となり、脾は生血之源となり腎は先天之本、精を蔵し、精は血に変わり、血も精に変わり"精血同源"となる」と記されています。

大浦 「精」と「血」は互いに行き来するのですか。

董和 血は先に言ったように、脾胃で取り込まれた水穀の気と、肺から吸入された清気が合して作られます。

この血が多ければ精に変わって、腎に収蔵されます。一方、血が使われて少なくなってくると、精が血に変わって補います。お互いに補い合っているのです。ですから精血は"月経の本"であり、精血が充実すると月経、妊娠、出産、哺
乳と、女性の機能がすべて順調にいく。つまり、女性の一生は「以血為本、以血為用」(前述)ということになるのです。

大浦 ところで、補血薬として使われるものにはどのようなものがありますか。

董和 当帰(トウキの根)、阿膠(牛、馬、豚などの皮、骨から取ったニカワ質)、鹿角膠(鹿の角から製したニカワ質)、桑椹子(クワの実)、枸杞子(クコの実)熟地黄(蒸して乾かしたジオウの根)、鶏血藤(マメ科の蔓性植物)、何首烏(ツルドクダミの根)、竜眼肉(ムクロジ科リューガンの実の仮種皮)などです。


「肝鬱」になりやすい

大浦 精神面で不妊の原因となっていることはありませんか。

董和 最も大きなものは「肝鬱」だと思います。肝には「血を蔵す」という大きな働きがありますが、もう一つ、「疏泄を主る」という働きもあります。これは情緒を安定させ、精神状態を快適に保つ働きです。

ところが、肝気の疏泄が失調すると気が鬱滞し、リラックスできない状態になります。そのためイライラ、怒りっぽい、精神的な動揺、抑ウツ、感情の変化などを来たし、これが激しくなると肝鬱になります。

大浦 今は、そういう女性が増えているように思います。

董和 一般に、女性は物事を深く考えるというよりも、感情に任せて行動し、感情の変動に揺さぶられやすい。

これは肝鬱になりやすい性格です。先の『校注婦人良方』にも「(女子は)物に対して頻繁に考え(思いわずらい)、思慮が過度になると、身体が労損になり……閉経になる」とあります。

大浦 女性の激しい感情の変化が、生理ばかりでなく妊娠にも影響を及ぼすのですね。

董和 生理の前や生理期間中は、特に精神的にリラックスすることが大切です。これに反すると生理不順や閉経、不妊などに影響が及びます。

大浦 次回は漢方的な対処の仕方についてお伺いしようと思います。

()