董和先生に聴く
不妊症・更年期障害(中)
聞き手:大浦純孝 社長

大浦 漢方的には、不妊症は腎精の不足と関わりが深いということでした。

董和 腎は生殖を司り、「(てん)」や子宮の機能失調、臓腋の気血不調和などとも関係があります。漢方の古典には、女子は二七(十四歳)のときにはじめて腎精から天癸という物質が産生されるとあります。
天癸というのは生殖機能を促進する物質で、毎月の生理の形成に重要なものです。
今の医学でいえば、性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン)女性ホルモン(卵胞ホルモン、黄体ホルモン)のようなものと考えられます。

大浦 漢方的にみて、不妊症の人はどのような体質が考えられますか。

董和 不妊症はたいてい腎虚、血虚、肝鬱、血瘀、痰湿などの証と考えます。
①虚証=初潮が遅い、生理が毎月遅れて来て量も少ない、足腰がだるいとか無力という人は虚証に属します。
②肝鬱証=イライラするとか、鬱々としている人。
③痰湿証=肥満している人に多い。
④血瘀証=小腹部(下腹部)がときどき痛むとか、生理の量が少なく月経困難がある人は血瘀証に属します。

大浦 初潮が遅く、生理が毎月遅れてくるというのは冷えた人に多いですが、冷えも不妊症と関係ありますか。

董和 冷えは腎陽の不足です。こういう人は気血ともに不足しますから、妊娠しにくくなります。

精血不足の不妊

大浦 では、まず精血不足による虚証の不妊から説明してください。

董和 多くは子宮の発育不良、内分泌機能の低下、または無排卵性月経などがあります。主な症状としては、生理の量が少ない、経血の色も暗い、生理周期が長い、顔色が悪い、腰がだるい、足が無力、舌の色は薄く舌苔も少ないなどです。

大浦
 こういった症状にはどのようなものがすすめられますか。

董和 私がおすすめするのは羊胎盤、鹿角、管花肉蓯蓉などです。
これらの食品は不妊はもとより、安胎(胎児の安定)や母乳分泌にも有益なものです。

大浦 胎盤にはどのような効果がありますか。

董和 『中薬大辞典』には「紫河車(ヒト胎盤のこと)は“天然のホルモン” といわれ、子宮や卵巣などの生殖器や乳腺などの発育に対して非常に有益であり、女性ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン、催乳ホルモン、成長ホルモンなどの産生促進作用がある」と記されています。
紫河車は虚弱体質による不妊、女性性器の発育不良、乳汁不足、更年期障害、免疫力の低下などに良いとされ、昔から虚弱体質、老化予防などによく使われる漢方生薬です。

大浦 男性には効果はありませんか。

董和 そんなことはありません。紫河車は女性専用の生薬ではありません。先の中薬大辞典には、紫河車は「補気、養血、益精の効能があり、虚損(虚弱体質)羸痩(激しい痩せ)労熱骨蒸(体に潤い物質が不足し、午後によく微熱が出る)や、咳と喘息、喀血、盗汗、男性の遺精と陽痿(インポテンツ)、また婦人の血気不足(貧血)、不妊、乳汁欠乏によい」とあります。

大浦 今はヒトの胎盤は医師しか扱うことができませんが、中国では生の胎盤を使うのですか。

董和 中国には健康のために胎盤を生で食べる人もいますが、生薬として使う胎盤は乾燥したものです。

大浦 もちろん健康な女性のものですね。

董和 そうです。『現代実用中薬』という本には「紫河車は自律神経失調症、陽萎(インポテンツ)、不妊によく、またはお産時の陣痛誘発、乳汁分泌促進などのためにも使用する」とあります。

食欲不振の不妊症

大浦
 虚証の不妊症の原因は精血不足だけですか。

董和 もう一つ、食欲不振による場合があります。日常生活において、脾胃(消化吸収機能)は食物から摂りいれた栄養素から「血」を作ります。「血」が十分に作られれば、これが今度は「精」に変わって腎に貯えられます。ですから食欲があり、腎精が充満している女性は、月経、妊娠、養胎、哺乳に至るまで、すべてが順調にいきます。
ただ、食欲はあっても気血、腎血が不足している場合があります。これは腎虚で、先天の気が不足しているのです。

大浦 そういう女性の見分け方は?

董和 気血が不足している女性は、生理が遅い、生理の量が少ない、顔色がよくない、体がだるい、足腰に力が入らないなどと訴えます。

大浦 こういう場合はどのような食べ物がよいですか。

董和 食欲があるのに気血・腎血が不足している場合は、補腎作用のある羊胎盤、鹿角、管花肉蓯蓉などをおすすめします。

大浦 食欲がない場合には?

董和 これは虚証で、脾胃の機能の低下が原因と考えられるので、食事が美味しくなり食欲が出るように、さらに熊柳、お種人参、山薬(ヤマイモ)、陳皮(ミカンの皮)、大棗(ナツメ)やスイテツ、シャチュウなどをプラスして用います。
ただし妊娠中の場合は、シャチュウやスイテツを食べるのは避けてください。

大浦 ところで、紫河車(胎盤)はどこに働くのですか。

董和 腎精に働きます。腎の精血を高める働きがあります。
一方、熊柳、お種人参、山薬、陳皮などは脾胃に働くもので、もし食欲があればこれらは必要ありません。

大浦 紫河車は腎精に働く代表的なものですか。

董和 ええ。そのほかに鹿角、管花肉蓯蓉なども良いものです。鹿角は腎の陽気不足を補う代表的な生薬です。管花肉蓯蓉は腎の陰と陽、両方を補います。

大浦 妊娠中にシャチュウやスイテツを使ってはいけない理由は?

董和 これらには瘀血(古血)を下ろす作用があるので、特に高温期(排卵期)には食べるのを避けた方がよいです。
また、田七人参、紅花、サフランなどには活血作用(血流をよくする)があり、これらも避けた方がよろしい。血流障害は病気の原因になるので、日本ではとにかく血流をよくすることが大事とされますが、妊娠したばかりのときは最も受精卵が流れやすい時期です。こういうときには活血剤を使うと流産しやすいので、中国では一切使わないようにと注意されています。

大浦 妊娠可能な時期にはむやみやたらに血流障害改善作用の強いものを使ってはいけないということですね。その他に使ってはいけないものがありますか。

董和 中国の本には、他に附子、烏頭、牛黄、巴豆、桃仁、牡丹皮、肉桂、牛膝、麝香、山稜、ガジュツ、延胡索、乾姜、ニンニクなども挙げられています。ただ、これらには個人差があり、食べたら必ず流産するというものではありませんが、摂るときには十分に注意してください。もう一つ、下剤も胎児を流す恐れがあります。大黄、芒硝、センナなどの強い下剤は特に注意が必要です。

肝鬱の不妊

大浦
 肝鬱の不妊はどのような人がなりやすいですか。

董和
 それはストレスなどが原因で気・血のめぐりが悪く、精神的に抑圧されて鬱々としているような女性です。

大浦 どのような症状が現われますか。

董和 典型的なのは生理の異常です。生理が不定期で、早く来たり遅く来たりします。また生理痛があり、生理の量が少なく色が暗かったり、経血に小塊が混じっていたり、生理の前に乳房の腫れ痛みがあったりします。精神的には抑圧されていたり、イライラしたり怒りやすかったりします。こういう症状があって妊娠しないものを、漢方では肝鬱不妊といいます。

大浦 肝鬱に対して良い食品にはどのようなものがありますか。

董和 肝鬱のうちイライラに対して良いものは、アカラフマ、霊芝、田七人参、ウコン、真珠、牡蛎などです。一方、憂鬱、恐怖、不安などの症状に対しては、南五加皮(エゾウコギの仲間)、サフラン、酸棗仁、ネムノキなどをおすすめします。

大浦 例えば、アカラフマと南五加皮というように、両方を合わせて用いてもよいですか。

董和 結構です。人間の感情というものは微妙です。イライラすることもあれば、心が沈み込むときもあります。双方の症状があるときは、合わせて用いればいっそう効果的です。
そして症状はいずれであれ、不妊に変わりはないので、基礎養生として子宮の血流を良くする野牡丹科植物や、腎精を増やすための羊胎盤、管花肉蓯蓉、亀の殻、朝鮮人参なども一緒に食べておくと、さらに効果的です。

痰湿の不妊

大浦 痰湿というのは?

董和 体の水分代謝が悪い場合を、漢方では痰湿証といいます。

大浦 痰湿の不妊の女性の症状は?

董和 生理がいつも遅れてきて、時には無月経のこともあり、希薄なオリモノが多くあります。血色が悪く、めまい、動悸、吐き気などの症状があります。舌苔は白くて多く、舌の周辺に歯痕があります。体型は肥満のことが多い。こういうタイプの不妊を、痰湿不妊といいます。

大浦 小太りと水太り、どちらが多いですか。

董和 どちらもあります。太っていて妊娠しない場合は、痰湿証が多いと考えてよいでしょう。

大浦 どのような食べ物がすすめられますか。

董和 一般に、漢方薬では痰湿に対して陳皮、半夏、蒼朮などが用いられます。これらは脾胃に対する生薬ですが、私は痰湿に対しては野生種のイモを用いています。和名はウチワドコロ、中国名は穿山(せんざん)龍または穿山(しょ)()といいます。これには消食(消化を助ける)化痰(異常な貯留水液の解消)利水(余分な水液の排泄)などの作用があるといわれます。
この場合も、肝鬱不妊と同じように、子宮の血流を良くする野牡丹科植物や、腎精を増やすために羊胎盤、管花肉蓯蓉、亀の殻、朝鮮人参などを合わせて食べるのがよい。

大浦 不妊の原因の中で、痰湿が占める割合は多いですか。

董和 いえ、少ないです。先の肝鬱による不妊も少ない。一番多いのは前回述べた腎精不足による不妊です。けれども、もし肝鬱や痰湿がある場合、これをそのままにして不妊症の治療をしても治りにくいですから、これらを同時に、あるいは先に治療してから不妊症の治療をすると治りやすくなります。
腎精不足に次いで多いのは「血瘀による不妊」です。
これについては次回説明します。

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