董和先生に聴く
不妊症・更年期障害(下)
聞き手:大浦純孝 社長

大浦 漢方的にみた不妊症の原因は、肝鬱や痰飲などもありますが、一番大きいのは腎精不足、次いで瘀血ということでした。
これまで二回にわたり腎精不足、肝鬱、痰飲による不妊症の対処法を教えていただきました。今回は、もう一つの不妊症の大きな原因である瘀血について説明していただこうと思います。

董和 瘀血による不妊は重要です。瘀血というのは血のめぐりが悪いことをいいますが、不妊症の瘀血は小腹部(下腹部)の血行が悪い、すなわち子宮や卵巣などの血行不良です。

大浦 どのような症状がありますか。

董和 小腹部に痛みあるいは塊があり、生理痛、不正出血があったり、経血の色は紫紅色か黒っぽくて血の塊が混じるなどですが、目立った症状がないときもあり、原因不明でなかなか妊娠しないときも小腹部に瘀血があると考えます。
さらに流産歴があったり、妊娠二、三ヵ月でいつも流産するというのも小腹部の瘀血が原因と考えられます。

大浦 流産癖も瘀血が原因ですか。

董和 流産したら必ず瘀血ができます。たびたび流産するというのは瘀血が原因と考えてよいと思います。

大浦 瘀血性の不妊症に対して、どのようなものが良いですか。

董和 漢方には瘀血の不妊に対して「少腹逐瘀湯」という処方があります。これを生理が始まると五日間だけ服用すると、四~五ヵ月で妊娠の可能性が高くなるといわれています。
しかし、これは瀉法で、体の弱い人、体力のない人にはきつすぎます。
そこで私は野牡丹科植物、シャチュウ、田七人参などを組み合わせて用いています。

大浦 それぞれについて特徴を説明していただけますか。

董和 「野牡丹科植物」には補血(血を増やす)活血(血のめぐりを良くする)止血などの効能があり、女性の健康に良いものです。
これにシャチュウ、田七人参などを加えると、女性の小腹瘀血証にはいっそう効果があります。
「シャチュウ」は動物性生薬の一種です。
D-ガラクトサミンという成分を含み、肝障害抑制作用などが報告されています。漢方の優れた駆瘀血薬の一つで、活血、化瘀(瘀血を解す)、消癥(塊を消す)などの効能があり、婦人の無月経や産後の腹痛、腹部の腫瘤、打撲傷などに用いられます。
「田七人参」は止血作用の優れた生薬で、古くから「止血の神薬」と呼ばれています。
同時に活血作用もあり、瘀血があればこれを除去します。つまり古い血を下ろし、新しい血の産生を促す「血の道」の名薬とされています。

大浦 これらを組み合わせたものは、瘀血を原因とする不妊症にも使えるということですね。

董和 不妊症の原因として大きなものは腎精不足と瘀血です(約九割)。瘀血には野牡丹科植物、シャチュウ、田七人参などの組み合せで対処できます。肝鬱や痰湿にもいいですが、このタイプは少ないです。

大浦 これらの組み合せの他に加えた方が良いというものはありませんか。

董和 これらの生薬の組み合せによって補血、活血、止血、止痛、消腫などの効能が発揮されます。不妊症の人は瘀血があってもなくても、毎月生理が始まったときから高温期が来るまで、これらを食べ続けられることをおすすめします。
そして生理期間以外のときは、補腎・強精の働きのある羊胎盤、鹿の角、管花肉蓯蓉、亀の殻などを食べておかれると、いっそう効果があります。

経験的治療法

大浦 中国には経験的治療法がいろいろとあるそうですが…。

董和 『中国医学百科全書』には、生理周期の各段階に応じた漢方治療法が載っています。それを参考にして、私が研究してきた食品について述べてみます。
①促卵胞方法。
これは卵子の発育促進剤として、生理期間が終わった直後に補腎陰の薬を投与する方法ですが、私はその代用として羊胎盤、亀の殻、管花肉蓯蓉などをおすすめします。
②促排卵方法。
これは排卵の誘発剤として、排卵の直前(高温期の直前)に、活血、去瘀、破血の薬を投与するものですが、私は代用として野牡丹科植物、シャチュウ、田七人参などの食品をおすすめします。
③促黄体方法。
黄体ホルモンの促進剤として、高温期になったら温補腎陽の薬を投与する方法ですが、これは羊胎盤、鹿角、海馬、管花肉蓯蓉、お種人参などで代用できますので、私はこれらをおすすめしています。

漢方の周期療法

大浦 漢方には周期療法というのもあるそうですね。

董和 これは月経周期を月経期、低温期(卵胞期)、排卵期、高温期(黄体期)の四期に分けて治療する方法です。

大浦 それぞれの期間に、どのような食品を摂ったら良いか、教えてください。

董和 「月経期」に子宮の血液がきれいに排出されないと瘀血になり、受精した卵子が着床できなかったり、着床しても育ちにくかったりします。また流産をくり返す原因にもなります。
この時期には血流を良くし、瘀血をためないようにするため、野牡丹科植物、シャチュウ、田七人参などをおすすめします。
「低温期」は卵胞の発育を促進し、卵子の質を高める時期です。それには補腎精のものが必要で、羊胎盤、亀の殻、鹿の角、管花肉蓯蓉などがすすめられます。
「排卵期」は低温期の終りから高温期の始まりにかけて約三~四日間ほどです。この時期は排卵を促進するために、活血、駆瘀血作用のあるもの(野牡丹科植物、シャチュウ、田七人参など)を用います。
「高温期」は黄体ホルモンの分泌を旺盛にするため、補腎陽の方法を行ないます。それには羊胎盤、鹿の角、海馬、管花肉蓯蓉などがすすめられます。

大浦 かなり細かく分かれていますね。実行するのが大変のような気がします。

董和 理想的には、このようにやっていただくのがよいのですが、これでは面倒で続けられないということであれば、
①生理の始まりから高温期に入ってすぐまでは、野牡丹科植物、シャチュウ、田七人参などを毎日食べる。
②生理の期間以外には、羊胎盤、鹿角、亀の殻、管花肉蓯蓉などを毎日食べる、という方法でも差し支えないと思います。できれば、高温期になったら海馬(タツノオトシゴ=補腎陽)を併用していただくと、さらに効果が高くなります。こうした方法で妊娠の可能性が高くなるものと信じています。

羊胎盤の働き

大浦 最近は、子宝相談も受けておられるそうですね。

董和 ええ、希望者が増えつづけています。皆さんに聞いてみますと、治療の理論は大体同じなのですが、使われている生薬や処方はまちまちで、やはり良いものを使わないと、理論だけでは効かないなあーと感じています。

大浦 先生は不妊症に羊胎盤をよく使われていますが、その働きについて説明してください。

董和 これまで述べてきましたように、不妊症の治療では腎精の不足を補い、気血のバランスを取ることが大切です。中でも羊胎盤は補血作用が優れています。管花肉蓯蓉は補陰・補陽の両方に使えます。亀の殻は補腎陰に、鹿角は補腎陽に働きます。
補気にはお種人参が効きます。そして補血に羊胎盤を使うことで、陰陽、気血のバランスが整うというわけです。

大浦 胎盤には人間のものをはじめ、牛や豚、馬、羊など、いろいろな動物の胎盤があります。とくに羊の胎盤を選ばれた理由は?

董和 それは羊胎盤の方が補精血の働きが強いからです。
漢方では羊肉は温性で補血作用があるとされ、『傷寒論』にも羊肉を使った「当帰生姜羊肉湯」という処方があります。
これは産後の血虚によるめまい、貧血、虚寒による腹痛、腰痛などに良いといわれています。
前回、紫河車のところで胎盤の効能について述べましたが、羊胎盤も不妊症ばかりでなく、妊娠中に血を増やし、胎児の発育の安定、産後の母乳分泌の促進などにもすすめられます。
女性は一生、血にまつわり、血に頼るものです。血が十分に補われれば、生理、妊娠、出産、哺乳、育児、さらには美容と健康にも大いに資するものです。

男性不妊にも必要

大浦 近年は、不妊の原因が男性側にもかなりあるといわれ、あるデータでは女性が45%で、男性は40%とありました。残り15%は原因不明の不妊だそうです。

董和 妊娠は女性の卵子と男性の精子が結びついて成立するものですから、どちらに不備があっても妊娠できません。女性ばかりみていては不妊症は解決しません。ただ私は、男性不妊は女性の場合より易しいのではないかと思っています。

大浦 といわれますと…。

董和 それは男性不妊の大部分(90%くらい)は腎精不足によるものと考えられるからです。男性不妊の原因として、無精子症、乏精子症、精子無力症、精子運動低下症などが挙げられていますが、これらの造精子障害や精子機能障害は漢方的にみると、いずれも腎精不足(「腎」の働きが弱い) のためといえます。

大浦 とすれば、これを立て直すには補腎のものということになりますね。

董和 そうです。これまでお話ししてきた羊胎盤、鹿角、海馬、管花肉蓯蓉など、補腎強精の働きのあるものが良い。こうしたものは日本の漢方ではほとんど使われていませんね。

大浦 残りの10%はどのような原因によるものですか。

董和 それは精管通過障害、精管機能障害など副性器障害といわれるものですが、これらは漢方では小腹部(下腹部)の瘀血が原因と考えます。これに対しては野牡丹科植物、シャチュウ、田七人参などで瘀血を除き、気血のめぐりを良くすることが役立ちます。

大浦 副性器障害では痛みを伴う場合があるようですが…。

董和 炎症があると痛みを伴うことがあります。そういう場合は「ツボクサ」を併用すると良いです。ツボクサには抗菌、抗炎症や活血(血流促進)化瘀血(古血の除去)などの働きがあり、炎症、痛み、腫れなどがあるときに良いものです。

大浦 現代医学は病名を細分化していくので、なかなか真の原因をつかみにくい面がありますが、今回の話で、漢方的には男性も女性も「腎精不足」と「小腹部の瘀血」を解消すれば、妊娠できる可能性がかなり高くなることがわかりました。
不妊症で悩んでおられるご夫婦の福音になればと願っています。

(了)