董和先生に聴く
ウツ病・自律神経失調症(Ⅱ)

聞き手:大浦純孝 社長

大浦 中国の「郁証」は日本の自律神経失調症に相当するということでした。郁証は実証と虚証に分けられ、それぞれに三つのタイプがあるそうですが、まず実証の方から説明してください。

実証の「郁証」
《実証①「肝気郁結」》

董和
 実証の郁証で一番多いのは「肝気郁結」というタイプです。肝の気が巡らない(滞った)ために起こります。

大浦
 どのような症状がありますか。

董和
 精神抑うつ、情緒不安定、ため息が多い、胸脇が張って苦しい、またはゲップ、下痢や便秘、嘔吐などの消化器症状、生理不順などです。舌の色と苔は正常とほとんど変わりありません。

大浦
 治療方針は?

董和
 漢方では「疏肝、理気、解郁」、すなわち情緒の安定を図り、気のめぐりを良くし、体をリラックスさせるように持っていきます。

大浦
 食品ではどのようなものが良いですか。

董和
 私が主にお勧めしているのは唐橘(からたち)穿山薯蕷(せんざんしょよ) です。唐橘は枳実とも呼び、ダイダイや夏ミカンなどミカン類の未熟果実です。

大浦
 枳実は、日本ではダイダイの未熟果が用いられます。

董和
 枳実は漢方では理気、健胃、消積、去痰などの効能があるとされ、気のめぐりを良くし、気の滞りによる硬結や痰(体内に貯留した異常な水液)による胸のつかえを取る作用があります。

大浦
 穿山薯蕷の方は?

董和
 別名「穿山龍」ともいわれ、野生ヤマイモの一種です。和名はウチワドコロといいます。利水(余分な水分を排泄)消食(消化を促す)去痰(異常な水液を除く)活血(血のめぐりを良くする)などの働きがあります。

大浦
 唐橘と穿山薯蕷は一緒に摂るのが良いのですか。

董和
 ええ。これらを一緒に食べると、肝気のめぐりが良くなり、精神抑うつ、情緒不安定、ため息、胸脇脹満、ゲップ、腹部膨満感などに効果があります。前号で説明した気郁、血郁、痰郁、湿郁、熱郁、食郁の六郁、すべてに適応します。

《実証②「気郁化火」》

大浦
 次に多いタイプは何ですか。

董和
 「気郁化火」です。これは先の肝気郁結が長く続くと起こってきます。

大浦
 実証の人は、はじめはみな肝気郁結なのですか。

董和
 ええ。虚証でもそうですが、肝気郁結は初期の比較的軽い状態といえます。実証の人はこれが進むと変化して気郁化火になります。

大浦
 どのような症状がありますか。

董和
 イライラする、怒りやすい、胸脇脹満、胃酸が上がりやすい、口が渇く、口が苦い、便秘、頭痛、目が赤い、耳鳴りなどです。そして舌が赤く、舌苔は黄色で多いです。

大浦
 これは熱症状ですね。

董和
 体力のある人は、肝気郁結が長く続くと「内熱」を生じてきます。それでこのような症状が出てきます。治法としては清肝瀉火(肝の熱をとる)解郁和胃(ストレスを和らげ消化を促す)などです。

大浦
 そのためには、食品ではどのようなものが良いですか。

董和
 この熱性タイプには唐橘、アカラフマ、霊芝、田七人参、ウコン、紅花、真珠、牡蛎などが勧められます。

大浦
 熱症状のある自律神経失調症には、漢方薬では加味逍遥散が用いられるそうですね。

董和
 ええ。しかし、唐橘やアカラフマ等には加味逍遥散と似た作用がある上に、活血、滋養強壮、鎮静の働きもあるので、効果的にはこちらの方が優れているといえます。

《実証③「気滞痰郁」》

大浦 熱以外ではどのような症状の人がいますか。

董和
 水分代謝が悪く、「痰」症状の人が結構います。

大浦
 それは具体的には?

董和
 特徴的なのは梅核気です。ノドに異物がつかえたような不快感があり、飲み込もうとしても、吐き出そうとしても取れません。

大浦
 俗に、梅の種がノドに引っかかったような感じと言われる症状ですね。

董和
 主にノドの筋肉のケイレンによるものですが、臨床的には、①舌色が淡く、苔が少ない冷えぎみの人と、②舌が赤く、苔が多い熱性の人の二種類があります。漢方では体質や症状に合わせてそれぞれ違う薬が処方されますが、食品ではどちらも唐橘と穿山薯蕷を合わせて対応できます。

大浦
 現代医学では自律神経失調症に良いものが少ないですから、有難いですね。

董和
 唐橘や穿山薯蕷にキュウコウチュウ、青皮、天竹黄(青竹の液汁)等を加えると、ほとんどの実証の抑うつ症状に使えます。ただし熱症状があるときは、アカラフマ、牡蛎、真珠などを合わせます。

虚証の「郁証」

大浦 郁証のはじめはみな肝気郁結で、体力のある人(実証)はここから気郁化火になったり、気滞痰郁になったりするということですが、では体力のない人(虚証)はどのような経過をたどるのでしょう。

《虚証①「憂郁傷神」》

董和 一つは「憂郁傷神証」です。これは女性がかかりやすい。

大浦
 どのような症状がありますか。

董和
 抑うつ、心神不安があり、わけもなく悲しむ、些細なことでも泣く、不眠に苦しむなど。ひどくなると昏迷(心が乱れ惑う)狂躁(気違いのように騒ぐ)あくび頻発などの症状がみられます。舌色は淡く、苔は白く、少ないです。

大浦
 治療はどのようにしますか。

董和
 養心安神、つまり心を落ち着け、精神を安定させることをまず考えます。

大浦
 食品ではどのようなものが役立ちますか。

董和
 お勧めするのは南五加皮、熊柳、冬虫夏草です。特に南五加皮は大切です。

大浦
 と言いますと…。

董和
 南五加皮はウコギ科の植物で、仲間が数種類ありますが、その中でも紅毛五加と呼ばれるものは抗ストレス、免疫力増強、鎮静などの作用が優れており、特に体力が低下して起こる自律神経失調症に適しています。熊柳はルチンを多く含み、民間では体力低下や食欲不振などに利用されますが、『中薬大辞典』には精神病にも効果があると記載されています。

大浦
 これらは三つ、一緒に食べるのですか。

董和
 いえ。まず南五加皮を試してください。軽いものなら、これだけで大丈夫と思います。もし食欲がなければ熊柳を加えてください。一方、体力が低下していれば冬虫夏草を加えるという用い方が良いでしょう。

《虚証②「心脾両虚」》

大浦 虚証の二番目のタイプは?

董和
 心・脾、両方が虚した人です。心虚は心臓循環系の機能低下の他に精神神経機能の弱りも含みます。また脾虚は消化吸収機能の低下を意味します。
大浦 主な症状は?
董和 もともと胃腸の弱い虚弱体質の人がなりやすく、心身過労の結果、不安神経症、健忘、不眠、動悸、めまい、貧血、顔面蒼白、食欲不振などを訴えます。

大浦
 治療目標は?

董和
 健脾養心、益気補血、すなわち胃腸を丈夫にし、気力を高め、血を増やすことが主眼になります。

大浦
 食品としてはどのようなものが良いでしょうか。

董和
 先の憂郁傷神証と同じく南五加皮、熊柳、冬虫夏草が勧められます。心身過労の改善には滋養強壮作用のあるものが必要になります。

《虚証③「陰虚火旺」》

大浦 虚証の三つ目のタイプは?

董和
 陰虚火旺証といいます。虚証で、体に潤いが不足しており、これが高じて熱性の症状を呈します。

大浦
 どのような症状ですか。

董和
 胸が熱くて、イライラするとか、口やノドが渇く、口唇が乾燥する、あるいはめまい、動悸、不安、不眠、遺精、生理不順などです。

大浦
 このタイプを見分けるには?

董和 舌を見てください。虚証ですから舌苔は少ない(あるいは無い)ですが、熱性ですから舌は赤くツルツルしています(前の二つは舌色が淡い)。

大浦
 同じ虚証ですから、有効な食品は先の二つと同じで良いですか。

董和
 いえ。陰虚火旺は体に潤いを持たせる必要がありますから、食品としては亀の殻やスッポンの殻を用います。イライラや怒りっぽさが強い人は熱症状もありますから、アカラフマ、牡蛎、真珠などを合わせるといっそう効果が高くなります。

「郁証」のまとめ

大浦 郁証(自律神経失調症)の場合、全体としてみると、補うことよりも、滞ったところを通じさせる、余分なものを捨てるという対処法が大切なように感じます。

董和
 そうですね。まずやらなければならないのは「理気」、つまり気の流れを良くすることです。これが滞ると肝気郁結になります。そして実証と虚証で違いますが、その後いろいろなタイプ、症状の郁証に発展していきます。

大浦
 でも、董和先生の対処法は、漢方の弁証論治のような複雑さがなく、簡潔ですっきりしています。

董和
 実証の郁証には、気・血・痰・湿・熱・食の「六郁」がありますが、熱郁は別として、他の五郁の症状には唐橘(枳実)と穿山薯蕷(ウチワドコロ)という基本の組み合せで対処できます。熱郁だけは唐橘にアカラフマ、牡蛎、真珠、天竹黄などを合わせて用います。

大浦 一方、虚証の郁証に対しては?

董和
 虚証には、冷えの虚証(憂郁傷神と心脾両虚)と熱性の虚証(陰虚火旺)があります。前者には南五加皮、熊柳、冬虫夏草が、後者には亀やスッポンの殻、アカラフマなどが基本の食品となります。

大浦
 本当にシンプルな対処法ですが、医薬品のような副作用がない上に、効能も高いというのが何よりもうれしいです。
それでは次回から、いよいよ、といいますか、日本の現代人を悩ませているウツ病についてお伺いしていくことにします。

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