董和先生に聴く
ウツ病・自律神経失調症(Ⅲ)
聞き手:大浦純孝 社長


大浦 ウツ病は俗に「心のカゼ」といわれるくらいで、現代人に非常に増えています。今回と次回の二回にわたって、ウツ病の成り立ち、治療法などについて説明していただこうと思います。ウツ病は現代医学的にみるとどのようになりますか。

董和
 現在、広い意味でのウツ病は気分障害と呼ばれます。これは大きく二つに分けられ、一つはいわゆるウツ病、もう一つは双極性障害(そううつ病)です。
大浦 この二つはどのような違いがありますか。

董和
 狭い意味でのウツ病は、ストレスにさらされると誰でもなる可能性があります。だから、心のカゼひきのようなものといわれます。しかし、これは放置して深刻になると命にかかわること(自殺企図)がありますから、注意しなければなりません。ただし、きちんと治療をすればほとんどが良くなります。

大浦
 そううつ病の方は?

董和
 これは治すのが難しいです。遺伝病ではありませんが、遺伝がかなり関与しているようです。

主因はストレス

大浦 ウツ病はどのようにして起こるのでしょうか。

董和
 最も大きな原因は、やはりストレスです。現代人は会社でも家庭でもさまざまなストレスを抱えていますが、私たちがストレスにさらされると、体はこれに立ち向かうために副腎から副腎皮質ホルモンを分泌します。

大浦
 抗ストレスホルモンですね。

董和
 そうです。ただ、通常はフィードバック機構が働いて、次第にストレス反応は治まってきます。ところが、ウツ病の患者さんではこれが止まらなくなって、副腎皮質ホルモンがどんどん出るようになってしまいます。またウツ病になると、脳内の神経伝達物質であるセロトニンが不足するといわれています。

大浦
 つまり、強い、持続的なストレスがいけないということですね。

董和
 そうです。ただ、ストレスに対する感受性には個人差があります。それは生まれ育った環境などによって決まるようです。例えば、幼いときに両親を亡くすといった体験をすると、脳ではセロトニン神経の発達が悪くなり、ウツ病になりやすくなるといわれています。

ウツ病の二大症状

大浦 ウツ病というと、すぐ思い浮かぶのは、気分が落ち込んだり、やる気が出ないといった症状ですが、他にはどのような症状がありますか。

董和
 医学的には、ウツ病の症状は大きく二つあります。一つは「抑うつ気分」、もう一つは「興味・喜びの喪失」です。抑うつ気分というのは、いま言われた気分の落ち込みや、何をしても気分が晴れないとか、空虚感などです。心が落ち込み、気分の晴れない日が続き、自分は何の価値もない人間だと感じたり(無価値感)、ひどくなると死にたいと訴えたりします。

大浦
 興味・喜びの喪失の方は?

董和
 感情が麻痺したような状態で、それまで楽しんでいたことに楽しみを見出せなくなります。何をしても面白くなく、物事に取りかかる気力がなくなり(気力低下)何もしていなくても疲れてしまい(易疲労性)考えがまとまらず(集中力、思考力の低下)小さなことさえ決断できない(決断力低下)などの症状がみられます。

大浦
 症状は心理的、精神的なものだけですか。

董和
 いえ、主に食欲、体重、睡眠、身体活動性の四つの領域で、顕著な減少(あるいは増加)がみられます。

大浦
 具体的には…。

董和
 一般には、食欲が低下して、体重が減り、眠れなくて、イライラしてジッとしておられないという人が多い。しかし、中には食欲が亢進して食べ過ぎたり、いつも眠たくて寝てばかりいたり、体をほとんど動かさないという人もいます。

よくある症状

大浦 ウツ病は本人は気づきにくいので、周りの人たちが気をつけてあげなければいけないともいわれます。そういう場合は、どのような症状に注意すべきでしょうか。

董和
 第一番は興味や喜びの喪失でしょう。専門的には「情緒の低落」といわれますが、それまで楽しんでやっていたことを楽しめなくなったり、やらなくなったら、おかしいと思わなければいけません。それと専門的には「思惟が遅い」といいますが、今までより話しが遅くなったり、声が小さくなった、言葉が少なくなった、答が出にくくなったなどにも注意が必要です。体の動きも少なくなったり、手の動作が減少したりもします。

大浦
 全身的な症状はどうでしょうか。

董和
 食欲不振や体力低下があることは先に言いましたが、ほかに顔面蒼白、目玉の動きが少ない、汗や唾液の分泌が減少、便秘がち、性欲減退、無月経、睡眠障害などもみられます。

大浦
 睡眠障害はどのような症状が多いですか。

董和
 先に、眠れなくて、イライラしたりすることが多いと言いましたが、特に普段より二~三時間早く目覚めて、以後眠れないという人が多いようです。

一日のリズム

大浦 食欲があまりなく、体力も弱い、同じような症状の低血圧の患者さんは、朝がダメで、昼ごろだんだん調子が出てくるといわれます。ウツ病の患者さんの症状はどうなんでしょうか。

董和
 症状は朝に重く、夜は軽くなるというのが一般的です。多くのウツ病の患者さんは、毎日、朝にゆううつ度が強く、気力も湧かず、自殺願望が出たりします。しかし、午後(三~四時)になると症状は楽になり、夜になるとほぼ正常に近い状態になることが多いです。でも、次の日の朝になるとまた暗転します。

大浦
 朝に憂うつがひどく、夜には楽
になるというのは、漢方ではどのように説明できますか。

董和
 これは他の多くの病気とは反対の経過ですね。ほとんどの病気は、朝に病状が安定していて、昼もまあ良いが、夕方にかけて悪くなり、夜はさらに悪くなるというのが一般的です。ところが、ウツ病はこれとは逆です。これを漢方では「気血錯乱、陰陽逆転」といっています。

大浦
 気血の流れが逆になっているということですか。

董和
 そうですね。自律神経失調症の人もそういう傾向があります。不眠症の人も夜は目がさえて眠れないのに、昼は眠くてしかたがないという人がいます。

子どものウツ病

大浦 ウツ病はいつも精神的、心理的症状から現われるのでしょうか。

董和
 必ずしもそうとは限りません。気分の落ち込みとか、興味・喜びの喪失などがはっきりしないで、頭痛、肩こり、めまい、胃痛、動悸、便秘、全身無力感、食欲不振、体重減少といった身体症状がはじめに現われてくる場合があります。よく調べてみると背景にウツ病があり、それに隠れているという意味で「仮面ウツ病」と呼ばれます。これが進むと、定型的なウツ病となってきます。

大浦
 最近は子どものウツ病も増えているといわれますね。

董和
 ええ。調査では十二歳未満の児童の0.5~2.5%に、十二~十七歳の思春期には2%から8%もの有病率が認められるとのことです。本来、溌剌としているはずの子どもたちにしては高い発生率だと思います。

大浦
 子供のときから受験などで、競争を強いられていることが影響しているのでしょうか。

董和
 子どものウツは、イライラしたり、少し落ち込んでいるように見えるくらいの軽い症状が多いようです。年齢の若い子どもは、ウツ症状を言葉でうまく表現できないこともあり、頭痛や腹痛などの身体症状として現われたり、また不登校など行動面で変化が現われたりするのが特徴といわれます。

不登校が治る

大浦 最近、子どもさんのウツ病が良くなった体験をされたそうですね。その経過をお聞かせください。

董和
 十五歳の女性でしたが、お母さんに連れられて相談にきました。当人の主訴は痛みで、頭が痛い、首が痛い、肩が痛い、お腹が痛い、お尻が痛い、足が痛い……と、全身に痛みを訴えました。ところが話を聞いてみると、憂うつで不登校もしており、お母さんは「この子はウツ病です」と私に告げました。

大浦
 激しい痛みではないのですか。

董和
 痛みの程度ははっきりしません。とにかくあちこちが痛いというので、はじめは黒アリをすすめ、痛みが強かったらツボクサを合わせて食べるようにおすすめしました。

大浦
 次に来られたときは…。

董和
 顔色が暗く、表情も乏しく、舌をみると淡く、舌苔はうすく白かったので、南五加皮をすすめ、アレルギー性鼻炎もあるというので熊柳を併用されるようにすすめました。

大浦
 それで良くなられた?

董和
 以後、ズーッと来られなかったので、どうしておられるかなーと時々案じていました。すると、半年以上経ってから、お母さんが一人でひょっこり見えました。「その後、娘さん、どうですか」と尋ねると「お蔭さまで全身の痛みが消え、暗かった表情も明るくなり、元気に学校へ通っています」と、大変喜ばれていました。

子どもの成長

大浦 子どもは症状の改善も大切ですが、成長も気になります。

董和
 そうです。今回、お母さんが来られたのは、別の相談でした。というのは、娘さんはもうすぐ十六歳になるのに、まだ生理が始まらないのだそうです。それで、どうしたら良いでしょうかという相談でした。ウツ病は成長にも影響を及ぼすのです。

大浦
 それは副腎皮質ホルモンの出過ぎの影響でしょうか。

董和
 それが大きいと思います。大人では骨粗鬆症などが心配されますが、子どもでは無月経になったり、胸が小さかったりします。

大浦
 こういう場合は、昨年のシリーズでお話しいただいた羊の胎盤が良いのではないかと思いますが…。

董和
 そうです。この娘さんにも羊胎盤をすすめ、いま食べてもらっているところです。まだ結果は頂いていませんが、ウツ病の方は快調で(子どもは治りが早いようです)、南五加皮などはいまは止めているけれども、元気に学校へ通っているということです。

大浦
 ところで、漢方薬にはウツ病に効く処方というのはあるのでしょうか。

董和
 おそらく適切な処方はないと思います。それは漢方に、いわゆるウツ病という概念がなかったからです。ウツ病は現代のストレス社会の申し子みたいなもので、昔は今ほど持続する過重なストレスはみられませんでした。それでウツ病に対する処方も創られなかったのでしょう。

大浦
 しかし先生が研究されている食品(生薬)の中には、かなり的確に効果を示すものがありますね。先の娘さんの例にもそのヒントがありますが、次回はそれらについて少し詳しく説明していただこうと思います。