董和先生に聴く
ウツ病・自律神経失調症(Ⅳ)
聞き手:大浦純孝


大浦 郁(うつ)証には実証・虚証があり、その中も細かく分類され、それぞれに対処法(弁証論治)がありました。ウツ病の方はどうなっているのでしょうか。

董和
 それが実は、漢方ではウツ病の理論体系がなく、弁証論治は空白状態なのです。だから実際に治療する場合、ウツ病を郁証として治療することも少なくりません。

大浦
 郁証は自律神経失調症のことで、漢方では理気開郁、つまり気の巡りを良くし、胸のつかえを解消してやることでしたが、この方法はウツ病には…。

董和
 ウツ病は複雑で、この方法(つまり自律神経失調症に対する治療法で)は効きません。

陽気の不足

大浦 では、ウツ病は漢方的にはどのように考えたらよいでしょうか。

董和
 私はウツ病の体質として三つあると考えています。まず第一は「陽気不足」です。前回、ウツ病の患者は朝は憂うつ感が強く、午後になるとだんだん軽くなることが多いと言いました。

大浦
 しかし、次の朝になるとまた憂うつがひどくなる…。

董和
 ええ。中国の最古の医学書とされる『黄帝内経・素問』には「気は日中は体の外を流れ、夜、眠ると体の中に入ってくる」ということが書かれています。陽気は朝、出てきて、日中が強いのです。

大浦
 ウツ病の人の症状が、朝、ひどいのは?

董和
 朝、出てこなければならない陽気が出てこないからです。

大浦
 陽気は体の中から湧いてくるのですか。

董和
 体の中から経絡を通して出てきて、体表を循環します。ウツ病の人はこれが出てこないので、朝、つらいのです。

大浦
 なぜ出てこないのでしょう?

董和
 陽気そのものが不足しているからだと思います。

大浦
 ウツ病の人は疲れやすいですね。

董和
 疲れやすいし、無気力、無力感などに襲われます。気力がなくなりますから、やる気が起こりません。

大浦
 気力を出すにはエネルギーが要りますね。

董和
 そうです。しかし、エネルギーがないので気力が出せません。

気血錯乱・多虚多瘀

大浦
 二番目の原因は何でじょうか。

董和
 「気血錯乱」あるいは「陰陽逆転」です。ウツ病患者の症状は朝重く、午後に軽快、夜は楽になるという経過が一般的です。これは他の病気の患者が朝は軽くて、夕方~夜に重くなるというのとは逆の経過です。漢方では、これを気血錯乱または陰陽逆転といいます。

大浦
 三番目は?

董和 「多虚多瘀」です。ウツ病は陽気不足(気虚)の病です。そのため精神的にも肉体的にも、体が疲れます。さらに陽気が不足し、気の巡りが悪くなります。

大浦
 気の巡りが悪くなると、血の巡りも悪くなりますね。

董和
 そうです。そのため瘀血がたまります。気が滞ると血が流れにくくなります。ウツ病は一日や二日の病気ではありません。長くなると必ず瘀血が生じます。

大浦
 陽気の不足が瘀血にまで影響してくるわけですね。

董和
 ええ。郁証とウツ病が大きく違うところは、郁証は主に気の巡りが悪いことが原因ですが、ウツ病は血の巡りも悪いのです。それだけ病いが深いということです。ですから治療には、補気(気を補う)とともに、化瘀(瘀血を解消する)も必要になります。

大浦
 血流が悪くなると体が冷えますが、ウツ病に冷えは関係あるでしょうか。
董和 関係あると思います。例えば、甲状腺ホルモンは栄養素をエネルギー化して体を温める働きがあります。これの分泌が少ない人は冷えを感じます。これは漢方的には陽虚(陽気不足)です。

大浦
 季節的には変化がありますか。

董和
 あります。ウツ病の人は秋から冬にかけて、寒い季節に悪くなることが多いです。春になって暖かくなると多くは症状が軽くなります。

南五加皮

大浦 漢方処方には見るべきものはないようですが、生薬の中にはウツ病に有効なものがあるそうですね。

董和
 特におすすめしたいものが二つあります。一つは「南五加皮」です。それも私が使っているのは、中国・四川省の山奥(標高二千メートルの高地)に自生しているものです。体を温める働きがあり、特に抗ウツ効果が優れています。

大浦 もう一つは?

董和
 「サフラン」です。生薬名は番紅花といい、花柱を用います。

大浦
 どのような効果がありますか。

董和
 漢方では清心(心を安らかにする)化瘀(瘀血を除く)の効があるといわれますが、特にウツ病の「興味・喜びの喪失」に良い薬草です。

大浦
 当社でも以前、サフランの入った製品を扱っていました。脳の海馬の細胞を活性化し、記憶力増強に良いということでした。

董和
 サフランは、『中薬大辞典』には「心経、肝経に入り、瘀血を解し、血流を良くし、抑うつを散じ、閉じこもった心を開く…」とあります。また『飲膳正要』には「久しく服めば、人の心を喜ばせる」ともあります。

大浦
 これらをどのように用いるのですか。

董和
 ウツ病には、南五加皮とサフランを合わせて用います。

大浦
 ただ、サフランは高価で、長く続けるには経済的負担が大きいですね。

董和
 そういう場合は、アカラフマ、田七人参、紅花、ウコン、真珠などで代用しても、同じような効果があります。

大浦
 抑うつ以外の症状があるときは?

董和
 もし食欲不振や体重減少があるときは熊柳を加えたり、無気力のときは冬虫夏草を加えたりしますが、一般には南五加皮とアカラフマの併用で対処できます。

アカラフマを併用

大浦 その方法でウツ病が良くなった方があるそうですが…。

董和
 ええ、ある薬局の先生の奥さん(五十代)ですが、昨年、体調不良を訴えて、病院で診察を受けたらウツ病と診断されたといい、薬も飲まれていました。私に相談があったときには、不眠、抑うつ、興味・喜びの喪失、易疲労性、さらに気力の低下、集中力・思考力・決断力の低下など、ウツ病の症状が全てありました。

大浦
 順調に回復されましたか。

董和
 はじめは南五加皮を中心に食べてもらっていました。三ヵ月ほど摂ってもらいましたが、いま一つ、効果が感じられませんでした。そこでアカラフマを加えてみました。

大浦
 量は通常の量でいいですか。

董和
 いえ、いつもの二倍の量を食べてもらいました。すると二、三日でよく眠れるようになりました。それまでボーッとしていた頭もすっきりしてきて、気分もだんだん良くなってきました。今では、いつもどおり働いておられます。

大浦
 これはアカラフマを加えたことによって血流が良くなり、南五加皮の効果が高まったと考えてよいでしょうか。

董和
 そうですね。南五加皮は体を温め、抑うつ気分を晴らす働きがあります。サフランの方は、興味・喜びの喪失を改善する働きがあります。これはアカラフマで代用できますが、アカラフマには瘀血を解し、血流を良くする働きがありますから、これらの相乗作用でウツ病が良くなったものと考えられます。

大浦
 良くなるまでに、どれくらいの期間がかかるでしょうか。

董和
 この方法で良くなった例が他にもいくつかあります。私の父もこれで治りましたが、皆さん、だいたい1~2年くらいかかるようです。

大浦
 予後はみな同じでしょうか。

董和
 いえ、ウツ病の経過は人によってさまざまです。一生に一度きりで、二度とかからない人もいますし、何度もくり返す人もいます。また、途中から躁状態が出てきて、双極性障害になる人もいます。

双極性障害

大浦 双極性障害は躁鬱(そううつ)病ともいい、遺伝的要素が強く、治りにくいということでしたが、最後にこの病気についてお話しいただきたいと思います。
董和 病名のとおり、躁状態と鬱状態が現われる病気です。100人中1人くらいがかかるといわれ、誰でもかかりうるウツ病とは大分ちがいます。いったん治っても放っておくと数年以内にほとんどの人が再発するので、生涯にわたって予防法が必要といわれています。

大浦
 漢方的にはどのように対処法がありますか。

董和
 これもウツ病と同じで、漢方にはその理論体系がありません。

大浦 先生は躁鬱病の成り立ちを、どのように考えておられますか。

董和
 躁状態は興奮が過剰になるので、これは陽の病気といえます。躁状態が特にひどいときは「瘀血+熱」、すなわち「瘀熱」の証と考えます。これを下ろすには漢方薬の桃核承気湯が適しています。

大浦
 結局、治療法としては?

董和
 鬱状態のときは南五加皮を用い、躁状態のときはアカラフマを用います。躁状態がひどいときは、これに瘀熱を下ろす桃核承気湯を合わせる、という処方でよいと思います。

大浦
 その他、特に注意することは?

董和
 ウツ病でも双極性障害でも、気分障害は(特にウツ状態の強いときに)自殺念慮が生じます。これの予防には十分注意を払ってください。

大浦
 現今、ますます増えているウツ病に対して、これらの健康食品は医薬品のような副作用もなく、穏やかな効能を示してくれます。ちょっとした落ち込みから深刻なウツ症状まで幅広く、心の重荷を軽くするには良いものと思います。

本日はどうもありがとうございました。

(了)