董和先生に聴く
不眠症の対策(下)
聞き手:大浦純孝 社長

大浦 前回は「実証」の不眠症の三つのタイプとそれぞれに有効な健康食品を挙げていただきました。今回は、虚証の不眠症についてご説明いただきたいと思います。
董和 虚証も実証と同じく三つのタイプがあり、漢方ではそれぞれ用いられる処方が違います。

「腎」の潤いが不足

大浦 一つ目のタイプは?
董和 〔1〕「陰虚火旺の証」です。これは前回少し説明しました「心腎不交・水火不済の証」です。
大浦 どのような症状がありますか。
董和 主に熱症状です。胸が熱く、イライラして眠れない、動悸、不安、めまい、耳鳴り、物忘れ、また腰がだるかったり無力だったり、手足がほてったりします。
大浦 舌はどうですか。
董和 口が乾燥し、舌は赤く、舌苔は少ないです。
大浦 どうしてこのような症状になるのでしょうか。
董和 漢方には「心の熱は下って腎の水を温め、腎の水は昇って心の熱を冷ます」という考えがあります。陰虚火旺の証では腎の水が不足してきます。そのため心の熱を抑えることができなくなり、体が熱を持ち、このような症状が現われます。
大浦 この証に対して漢方ではどのような処方が用いられますか。
董和 このタイプには症状に合わせて、黄連阿膠湯、天王補心丹、栢子養心丸などの漢方薬が用いられます。
大浦 食品ではどのようなものがよいでしょうか。
董和 一番おすすめしたいのは亀の殻やスッポンの殻です。これらは腎陰虚(うるおい不足)を補うには最適のものです。この方が、漢方薬をいろいろと探すより簡単です。
大浦 腎が潤えば、腎の水が上に上がって心の熱を冷ますことができるわけですね。この他に、何か合わせた方がよいものがありますか。
董和 南五加皮、酸棗仁、サフランなどをいっしょに摂ると、いっそう良いです。
眠りが浅く、夢が多い

大浦 二番目のタイプは?
董和 〔2〕「心脾両虚の証」といいます。簡単にいうと、悩み事が多くて食欲が低下し、眠れなくなるタイプです。
大浦 主な症状としては?
董和 寝ていても夢が多く、眠りが浅くて、すぐに目が覚めます。また動悸、めまい、物忘れや、食べものがおいしくない、顔の色つやがよくない、手足がだるい(あるいは無力感)などです。
大浦 その起こる機序は?
董和 心は血を主り、脾は血を造る源です。心も脾も虚すると、心血不足になり、動悸、多夢、浅眠などを生じます。また、気血不足から脳へ栄養が行かず、めまい、健忘などを生じます。
大浦 漢方薬ではどのようなものが用いられますか。
董和 このタイプは主に加味帰脾湯で対処します。
大浦 食品ではどのようなものが良いですか。
董和 私がおすすめしているのは熊柳、お種人参、黄精(なるこゆり)、山薬(ヤマイモ)などです。
大浦 この場合も、南五加皮などを加えた方がよいですか。
董和 ええ。南五加皮や酸棗仁、サフラン等をプラスするといっそう良いです。

大浦 最後、三つ目のタイプは?
董和 〔3〕「心胆気虚の証」です。一口で言うと、不安神経症的なタイプの人です。

大浦 どのような症状ですか。

董和 夢見が多く、眠りが浅いことは前のタイプと同じですが、このタイプは驚きやすく、気が弱くて物事に対して恐怖感が強いという特徴があります。元気がなく、体がだるいことが多いです。
大浦 漢方薬ではどのようなものが用いられますか。
董和 中国では安神定志丸という処方が用いられますが、これは日本にはありません。だから日本では、栢子養心丸に帰脾湯を合わせるとか、酸棗仁湯を合わせるなどの工夫が必要です。
大浦 先生のおすすめの食品は?
董和 このタイプも南五加皮、酸棗仁、サフランなどで対処できます。
これの方がはるかに簡単で、効果も優れています。

大浦 ほかに、何か合わせた方が良いものは?
董和 食欲不振、体力低下があれば、熊柳、お種人参などを併用するとよいですが、通常は南五加皮、酸棗仁、サフランなどだけで十分です。

自己チェック簡単療法

大浦 これで前回と合わせて実証、虚証の不眠症に対する治療法を説明していただいたわけですが、これではまだ少し煩雑です。もっと簡単に、自分で判断して、食品を選んで対処する方法はありませんか。
董和 それには鏡で、自分の舌の色と苔を見ていただくと判断できます。基準となるのは「舌の色が赤いか淡いか」、それと「舌の苔、とくにネバネバの苔があるかないか」です。
大浦 ネバネバの苔というのは?
董和 漢方的には「膩苔(じたい)」といいますが、白っぽい苔が舌にベターッと付いています。冬にブタの脂が固まりかけたとき、少しドロッとして中にザラザラしたものが混じっている、そんな感じです。
大浦 このネバネバ苔の有無と舌の色とを組み合わせてみるわけですね。
董和 そうです。舌の色が全体に赤いかそうでないかをみます。
大浦 では実際に、どのように用いたらよいか、具体的に説明してください。まずネバネバ苔がない場合は、どのようなものを用いたらよいですか。
董和 ①「ネバネバ苔がない場合」は、実証でも虚証でも全ての不眠症に、アカラフマ植物と南五加皮を合わせていただくと、良いです。
大浦 必ず併用しないといけないということですか。
董和 どちらか一方を、ということであれば、まずアカラフマ植物を試してみてください。それで効果がなければ南五加皮を加えてください。
大浦 双方の働きはどのように違うのでしょうか。
董和 アカラフマ植物には興奮を抑える働きがあります。ですから、興奮しやすいタイプの不眠症にはアカラフマ植物が適しています。一方、不安神経症タイプには南五加皮が適しています。

ネバネバの舌苔

大浦 次に「ネバネバ苔がある場合」ですが、その前に、ネバネバ苔というのは体がどのような状態にあることを示しているのですか。
董和 漢方でいう湿・痰・食積などで、体に余分な水分が滞留していたり、食べ過ぎて消化不良を起こしていることなどを表わしています。
大浦 では舌にネバネバ苔がある場合、どのような食品がすすめられますか。
董和 基本となる食品としては野生イモの一種の「穿山薯蕷植物」がすすめられますが、併用する食品は舌の色などによって異なります。
例えば、②「ネバネバ苔があり、舌色が赤い」人は、穿山薯蕷植物にアカラフマ植物を合わせて食べていただくとよい。

大浦 舌の色が赤くない場合は?
董和 ③「ネバネバ苔があり、舌色は赤くない」人は、穿山薯蕷植物と南五加皮を合わせて摂ることをおすすめします。
大浦 アカラフマ植物と南五加皮とでは自律神経に対して及ぼす作用は違うのでしょうか?
董和 アカラフマ植物は高ぶった交感神経を鎮める働きをします。
一方、南五加皮の方は低下した副交感神経の働きを高める作用がありますが、この二つは一概にどちらがよいとはいえなくて、その時期によってアカラフマ植物がよいときもあれば、南五加皮がよいときもあります。どちらがよいか分からないときは、両方をいっしょに食べても結構です。

大浦 もう一つのパターンは?
董和 ④「ネバネバ苔があり、お腹に膨満感があり、便秘がち」という場合で、こういう人の不眠症には穿山薯蕷植物に唐橘(夏ミカン)を合わせて食べていただくとよいです。

まとめとして
大浦 不眠症はこの四つのパターンを考えておけばよいですか。

董和 もう一つ考えておいてほしいのは「舌の色が赤くて、苔が全くなくて、舌がツルツルしている」場合です。
大浦 年をとると舌苔がなくなり、ツルツルした舌になる人が多いですね。
董和 はじめの方で少し述べましたが、これは腎の陰虚(うるおい不足)によるものです。
大浦 これには亀の殻やスッポンの殻がよいということでした。
董和 ええ。これらに南五加皮を加えるとなおよいですが、穿山薯蕷植物は適しません。
大浦 南五加皮は不眠症の対策のべースと考えていいですね。
董和 そうですね。不眠症にはこれを基本として、熱症状があればアカラフマを合わせる。ネバネバ苔(膩苔)があれば穿山薯蕷植物を合わせ、また舌が赤く、苔がなくツルツルしているときは亀やスッポンの殻を合わせるという用い方で、大きく外れることはありません。

大浦 これなら自分で鏡を見て、舌の色が赤いか赤くないか、ネバネバ苔(膩苔)があるかないかなどを観察して、家に居ながら対処できます。簡単ですし、効果も高く、副作用もありませんから、安心しておすすめできます。
本日はどうもありがとうございました。

(了)