董和先生に聴く
聖なる薬草「馬鞭草」(下)
聞き手:大浦純孝


大浦 馬鞭草(ばべんそう)は世界で古くから用いられ、漢方的にいえば「湿・熱・毒」の解消に役立ち、インフルエンザに良いばかりでなく、万能薬的な効能も期待できるということでしたが、臨床で使用されたデータはあるのでしょうか。

董和 『中薬大事典』にいくつか臨床報告が載っています。一つはマラリアの例です。これは典型的な半表半裏証(寒熱往来がある)の病気ですが、マラリアの治療100例の中で、馬鞭草の症状抑制に対する有効率は約90%と報告されています。

大浦 マラリアにはキニーネが特効薬といわれていますね。

董和 長期、慢性のマラリアに対して、抗マラリア剤の治療で効果がなかったものでも、馬鞭草はしばしば効果がみられたということです。

大浦 ところで、馬鞭草はインフルエンザに対して大きな効果があるということでしたね。

董和 これに関しては、かなりしっかりした結果があります。馬鞭草50g、青蒿(解熱作用がある)と羌活(風邪や頭痛に用いる)各25gを煎じて、一日二回服用するか、または粉末にして茶剤をつくり、これに湯をさして浸出液を飲みます。こうして51例を追跡観察したところ、なんと46例が全治し、有効が3例で、無効は2例しかなかったということです。

大浦 90%が全治というのはすごいですね。その他にも、何か検証された例があるでしょうか。

董和 白喉(ジフテリア)の例があります。馬鞭草の全草(乾燥)50gを濃く煎じて、300ccくらいにします。これを一日量として三~五日間、続けて服用しました。これで50例のジフテリアが全部治癒したそうです。

大浦 これもすごいですね。細かいデータがあるのでしょうか。

董和 ええ。服用後の下熱時間は平均15.3時間、偽膜消失期間は2.2日、咽喉拭塗培養が陰性になる期間は2.4日、そして入院期間はだいたい四~六日ということでした。


併用で効果アップ

大浦 こう見てきますと馬鞭草はかなり幅広い効能があるのがわかりますね。

董和 前回も少し述べましたが、馬鞭草は表証の外感発熱(熱邪)にも効きますし、裏証の湿熱黄疸や水腫、痢疾(湿邪)にも効きます。また半表半裏証のマラリアには特効的に効きますから、表証、半表半裏証、裏証を問わず全般的に対応できます。さらに炎症性(毒)のジフテリア、喉痺、廱腫瘡毒、牙疳などに解毒効果を有し、熱・湿・毒いずれにも対応できますから、幅広い効能を有するといえます。

大浦 馬鞭草といっしょに摂ったら、さらに効果が高まるというものはありませんか。

董和 私は馬鞭草に、柴胡の葉、枳穀、生姜、大棗の四つを合わせて食べることをすすめています。

大浦 それぞれどのような働きを持っているのでしょうか。

董和 柴胡と枳穀には解熱効果があり、肝気(ストレス)をリラックスさせる働きがあり、半表半裏の邪気を除くのに優れた効果があります。また、生姜と大棗は「健脾和胃」といって胃腸によく、消化吸収機能を高め、利水効果もあります。

大浦 こうした組み合せが、インフルエンザや高熱のあるカゼに有効なことはもちろんですが、その他にはどのような病症に有効でしょうか。

董和 女性の子宮筋腫、浮腫、肝硬変やガンの腹水、歯痛や歯周病、皮膚の出来物などに有効と考えています。漢方薬の加味逍遥散の代用としても使えます。

大浦 この組み合せは、女性に特に良いのでしょうか。

董和 女性だけによいわけではありませんが、馬鞭草は古くから女性とともに歩んできた薬草といわれます。虚弱な体質の女性は手足が冷えやすいのに、時々全身が熱くなり、のぼせたりします。また月経異常や子宮筋腫を伴うこともあります。こういう症状には特に効果的です。

大浦 精神神経的な症状にはどうでしょうか。

董和 馬鞭草には利水、血流改善のほかに精神安定、神経をリラックスさせる作用もあります。そのため、疲れやすい、頭痛、頭重感、めまい、肩こり、動悸、精神不安、憂うつ感などにも効果があり、女性にはとても良いものです。


非定型ウツ病

大浦 最近、若い女性に非定型ウツ病が多いと話題になっていますね。

董和 これはウツ病ですから気分が落ち込むとか、不安になったりイライラしたりしますが、大きな特徴として気分の反応性、つまり楽しい出来事があると気分が明るくなるという特徴があります。これに加えて、次の特徴のうち二つ以上があると非定型ウツ病と診断されるといわれています。
 ①過食(甘いものが好きで、多食し体重が増える)
 ②過眠(一日に10時間以上眠る)
 ③鉛様マヒ(手足が鉛のように重い感じ)
 ④拒絶性過敏(人間関係において拒絶されることに過敏になる)

大浦 年齢的にはどの年代に多いですか。

董和 若い世代、主に二十~三十代に多くみられます。神経性ウツ病とも呼ばれるタイプで、二十~三十代の女性がかかるウツ病の約八割が非定型ウツ病といわれています。

大浦 患者は女性が多いのですか。

董和 若い男性もかかりますが、女性が圧倒的に多く、男性の三~五倍は多いとみられています。

大浦 非定型ウツ病は、漢方ではどのように考えられますか。

董和 これは漢方の「郁(うつ)証」にとてもよく似ています。郁証というのは、日本でいえば自律神経失調症と同じような症状です。

大浦 郁証は以前の対談(平成19年12月号~平成20年1月号)で詳しくお話しいただきましたが、もう一度かいつまんで説明してください。

董和 「郁」という字には「通らない」「流れない」あるいは「滞る」といった意味があります。漢方では、体の中でいろいろなものの流れ(循環)が滞るために病気になると考えています。

大浦 どのようなものの流れが滞るのでしょうか。

董和 全部で六つありますが、まず滞るのが「気」です。これを「気郁」といいます。これが発端になります。

大浦 次は何が滞るのでしょうか?

董和 気郁がつづくと、やがて血の流れが滞ったり、水分の代謝が狂ったり、熱が出たり、消化・吸収に支障が現われたりと、いろいろな症状が出てきます。これらはそれぞれ血郁・痰郁・湿郁・熱郁・食郁とよばれ、はじめの気郁と合わせて「六郁」といいます。どの郁証も起こり得ますが、最初に起こるのは気郁です。


郁証と非定型ウツ病

大浦 郁証と非定型ウツ病は、どこが似ているのでしょうか。

董和 私たちの体で、気郁と関係が深い臓器は肝臓です。肝臓はリラックスの臓器とされ、肝気が滞ると脇腹が苦しい、お腹が張るといった症状のほかに、怒りやすい、イライラする、感情の変化が激しいなど、精神的な症状も現われます。これはまさに自律神経失調症にともなう症状で、非定型ウツ病の一番大きな精神的症状は気郁に相当します。

大浦 では非定型ウツ病の気郁以外の症状を、漢方的に説明していただくと、どのようになりますか。

董和 小さな症状として四つありましたが、甘いものが好きで多食し、体重が増えるというのは「痰・湿」と関係があります。漢方では、甘い飲食物を摂りすぎると脾胃の運行(消化吸収機能)を損傷し、「湿」が集まって「痰」を生ずるとしています。体内に痰・湿が停滞すると、体が重たくなります。したがって、非定型ウツ病で手足が鉛のように重たく感じるというのは、痰・湿が原因と考えられます。

大浦 次の眠りすぎるというのは、何が原因でしょうか。

董和 睡眠は夜、取るものですが、夕方から夜にかけて具合が悪いというのは血郁と関係があります。漢方では、気は朝に体内から体表へ出てめぐり、夕方にはまた体内に戻ると考えています。それで、この時間帯(主に昼間)に具合が悪いのは気のめぐりの問題としています。一方、夕方~夜に具合が悪いのは血のめぐりに問題があるとされています。

大浦 よく「病いは気から」と言われますが…。

董和 はじめに起こるのは気郁だといいましたが、気が滞れば血も水(痰・湿)も滞ります。気・血・水が十分にあり、その運行がスムーズで協調していれば、人は健康です。これらに過不足があったり、どこかで停滞したりすると、さまざまな症状が現われたり病気になったりします。

大浦 とすると、非定型ウツ病を改善するには、気・血・水の運行をスムーズにし、これらを協調させることが大切になります。これに馬鞭草が役立つわけですね。

董和 ええ。馬鞭草には、肝気をリラックスさせる、散血(血流改善)、利水(水分代謝を促す)などの作用があります。これに柴胡、枳穀、生姜、大棗(いずれにも肝気をリラックスさせる働きあり)を合わせて用いますから、非定型ウツ病には大変有効といえます。


精神安定作用

大浦 最後に、馬鞭草の科学的解明はどの辺まで進んでいるのか、教えてください。

董和 馬鞭草の成分として、ベルベナリン、ベルベニンなどが見つかっています。

大浦 これらの作用はわかっているのですか。

董和 「ベルベナリンとベルベニンは化学的、薬理的性質がよく似ており、少量では交感神経の末梢を興奮させ、大量では抑制する。また、副交感神経に対しては興奮作用がある」と『中薬大辞典』には載っています。

大浦 つまり、リラックス効果が高いということですね。

董和 そういうことです。これらの成分は気分の落ちこみ、イライラ、精神的疲労などを緩和し、精神的に安定させるといわれます。また、緊張を和らげ、ストレスに対する抵抗力をつけるともいわれます。

大浦 単なる言い伝えだけではなかったのですね。

董和 古代から馬鞭草が、聖なる薬草とか病気の万能薬といわれ、さらに魔除け、病い除け、お守りとされたり、予言や呪術、媚薬などに使われたのも、精神安定作用があったからではないかと思います。

大浦 これを用いてはいけないという人はありませんか。

董和 馬鞭草は、特に女性に対して大変役立つ薬草ではありますが、妊娠している方には適しませんので、避けてください。

大浦 馬鞭草に柴胡、枳穀、生姜、大棗を合わせたものは、花粉症やアレルギー性鼻炎にもよいということですから、ますます期待が持てますね。
本日はどうもありがとうございました。

(了)