董和先生に聴く
体験例集(上)「馬鞭草」
聞き手:大浦純孝 社長

大浦  今回の対談では、最近の体験例についてお話しいただこうと思います。今号では馬鞭草の症例について、次号では地膚子の症例をお話しいただきたいと思います。まず馬鞭草ですが、これはカゼやインフルエンザによく効くということでしたね。

董和 ええ。特に馬鞭草(クマツヅラ科植物)に柴胡(ミシマサイコ)の葉、枳穀(ダイダイの未熟果実)などを合わせると有効で、熱が高く、ノドが痛いカゼに効果があります。また同じクマツヅラ科の人参木植物や、板藍根(ばんらんこん)などを合わせて食べると、さらに幅広いカゼの症状に効果があります。

大浦 まず、いくつか、効果のあった例を挙げていただけませんか。

董和 馬鞭草や人参木植物などに関する情報を全国の会員の皆さんに紹介しましたところ、多くの先生方から体験例をいただきました。今日、紹介しますのは、全国約70の歯科医院で構成され、世界初の義歯(ミラクルデンチャー)の技術を研究されている歯科医師団体の先生方からいただいた症例です。症例をお寄せいただいた先生方には心から感謝いたします。

大浦 はじめの症例はどのようなものでしょうか。

董和 これは、ある歯科医院のスタッフの娘さん(18歳)の例です。鼻づまりとノドの強烈な痛みを訴え、相当重症のカゼと思われました。そこで馬鞭草、柴胡の葉、枳穀などが与えられました。また、人参木植物もいっしょに利用されました。

大浦 どれくらいで効果が現われたのでしょうか。

董和 30分ほどで鼻が通るようになり、約二時間後にはノドの痛みも軽快したということです。次の日には元気になり、買い物にも行けました。本人はもとより、スタッフもびっくりだったそうです。

大浦 他にも例がありますか?

董和 もう一つは、元旦に高校生の息子さんが、高熱などインフルエンザ様の症状を伴うカゼをひいたという歯医者さんからの報告です。やはり馬鞭草、柴胡の葉、枳穀などを用いたところ、二日の夜には回復していました。不思議です、というメールをいただきました。


典型陽熱性風邪

大浦 馬鞭草には熱を冷ます働きがあるそうですが、これを食べたら少し寒気がするという方がありました。

董和 カゼは大きく、体力のある人のカゼと体力のない人のカゼに分けられます。私はさらに、体力のある人のカゼを「典型陽熱性風邪」と「非典型陽熱性風邪」に分けていますが、馬鞭草を食べて寒気を感じたというのは体力のない方だと思います。

大浦 難しい病名ですが、わかりやすく説明してください。

董和 これは正式な病名ではなく、私が便宜的に付けた呼び名です。典型陽熱性風邪というのは体力がある人のカゼを指します。寒気がしたり高熱が出たり、またノドの痛みが顕著なのが識別のポイントです。その他に、鼻水、鼻づまり、頭痛、筋肉痛、咳、胸が苦しい、口が渇くなどの症状が出ることもあります。

大浦 このタイプのカゼやインフルエンザは、どのような体質の人がかかりやすいですか。

董和 それは若者や体力のある人ですが、熱を持ちやすい持病(糖尿病、高血圧、結核、慢性咽喉炎など)のある人も起こしやすいです。

大浦 ここ数年間の傾向ですが、厚生労働省もマスコミもこぞって「今年の冬はインフルエンザが大流行して大変なことになる」と喧伝しますが、実際のところはどうなんでしょうか。

董和 特に高熱が出て、ノドの異変を訴えるカゼが多かったようです。これについて、ある薬局の先生から症例をいただきました。十三歳の息子さんの例です。

大浦 どのような経過だったのでしょうか。

董和 昨年の末、息子さんがカゼをひいて、40℃近い高熱を出されたそうです。ノドの痛みもひどかった。最初は漢方薬の銀翹散を飲ませたそうですが、症状は少しも改善されなかった。そこで夜になって馬鞭草、柴胡の葉、枳穀などを与えられたそうです。すると、翌朝には熱は36℃台に下がっており、ノドの痛みもなくなっていたということです。その効き目の早さに驚かれていました。


非典型陽熱性風邪

大浦 では、もう一つの非典型陽熱性風邪というのはどういうカゼでしょうか。

董和 これは典型陽熱性風邪とよく似ていますが、症状は軽い。しかし症状が長引いて、なかなかすっきりと治りません。そして体調は午前中はまだ楽ですが、午後になると症状が悪くなる傾向があります。

大浦 かかりやすい季節とかはあるのでしょうか。

董和 春先から夏前にかけてよく見られます。漢方的には湿邪(水分代謝障害)と関係があるので、風湿熱性の風邪とも呼ばれます。

大浦 「典型」の方は症状が激しく、「非典型」の方の症状は比較的軽いようですが、これらの陽熱性風邪にはどのように対処すればよいでしょうか。

董和 典型でも非典型でも、陽熱性風邪には、馬鞭草や柴胡の葉、枳穀などと、人参木植物を合わせて摂ることで対応できます。特に、ノドの痛みが強いカゼには馬鞭草や柴胡の葉などを、また下痢などの胃腸症状を伴うカゼには人参木植物を主体にして用いるとよいでしょう。

大浦 どちらのタイプかわからないようなときには、どうすればよいでしょう?

董和 一番よいのは、馬鞭草や柴胡の葉などと、人参木植物とを合わせて食べることです。そうすれば体力のある方の幅広いタイプのカゼに対処できます。

大浦 これらを合わせて食べたらよく効いたという症例はありますか。

董和 先の歯科医の先生のところで、女性スタッフ(22歳)が度々スタッフルームに消えるので、どうしたのかと尋ねたところ「少し下を向くと鼻水が垂れる」というので、すぐに馬鞭草や柴胡の葉などの生薬と、人参木植物とを合わせて食べてもらったそうです。

大浦 すぐに効きましたか。

董和 ええ。鼻水ばかりでなく、鼻づまりや咳、ノドの痛みも30分ほどで消えたということです。もう少ししんどくなったら風邪薬を飲もうと思っていたところだったそうです。


虚人風邪

大浦 では、次に体力のない人のカゼについて説明してください。

董和 これは「虚人風邪」といいます。虚弱体質、体力低下、お年寄りなどによく見られるカゼで、「冷え性のカゼ」ともいえます。

大浦 どのような特徴がありますか。

董和 陽熱性風邪と違って、カゼをひいても発熱することはほとんどありません。寒がりや鼻水、鼻づまりが主な症状で、ノド痛もほとんどありません。

大浦 このタイプのカゼは、どのように対処すればよいでしょうか。

董和 体力のない人は、発熱やノド痛みはほとんどありませんから、馬鞭草や柴胡の葉などより、人参木植物を主体にした方が良いでしょう。それだけでなく体力を高めるものを合わせて摂ると、治りが早くなります。

大浦 具体的にはどのようなものが適していますか。

董和 このタイプの人は体力が乏しかったり寒がりだったりします。それで体を温め体力をつける働きのある熊柳植物(クロウメモドキ科)とか冬虫夏草(キノコの一種)あるいは高麗人参などを合わせて摂ります。それによって体力を補いつつカゼの症状を改善していきます。

大浦 いずれにせよ、このタイプの基本になるのは人参木植物ということですね。

董和 そうです。カゼのかかりはじめなら、これだけでも良くなります。

大浦 どなたか、例がありますか?

董和 やはり先の歯科医師団体の先生からのメールです。「前の日からカゼ気味でしたが、今朝はひどい鼻水です。熱はなく、症状は鼻水だけでしたので、人参木植物を食べてみました。すると、30分ほどでピタリと止まりました。今、夕方ですが鼻水は全く出ていません。今までにこんな経験はしたことがありません」とありました。

大浦 カゼをひくと長引くという人がありますが…。

董和 そういう人もたいてい体力がなく、寒がりです。熱やノド痛もなく、鼻の症状が主でしたら、こうした組み合せが適しています。

大浦 人参木植物は長く食べても害はありませんね。

董和 ええ。人参木植物は体に優しい生薬で、妊婦や子どもに用いても安全です。人参木植物と熊柳植物あるいは冬虫夏草の組み合せは続けて食べても大丈夫です。


花粉症にも


大浦 漢方ではよく「春のカゼには○○、冬のカゼには△△」といいますね。春のカゼには人参木植物が良いのでしょうか。

董和 そうですね。漢方的には、風邪が体の浅い所にあるとき(風邪のひき始め、または軽いカゼ)には人参木植物が良いでしょう。人参木植物はまた、胃腸型のカゼ(下痢を伴う)にも良いものです。

大浦 馬鞭草や柴胡の葉、枳穀などは、体の深いところにある風邪に良いということになりますか。

董和 そういうことです。平たくいえば馬鞭草や柴胡の葉などは「難しいカゼ」に良いということです。単に風邪だけでなく、「熱・痰・湿」などの邪気が混じったカゼに対処します。特に「湿・痰」を含んだカゼ(ネバネバの舌苔、舌縁に歯型がある)は春~夏に多くなります。私が中国で医師をしていたとき、一番多かったのがこの型のカゼでした。

大浦 ところで、春は花粉症のシーズンです。これに最もすすめられる生薬は何でしょうか。

董和 それも馬鞭草や柴胡の葉、枳穀などです。花粉症ばかりでなく、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎(蓄膿症)などにも有効です。鼻水、鼻づまりなど鼻の症状に対しては、馬鞭草や柴胡の葉、枳穀などが第一選択となります。

大浦 これらだけで良いでしょうか。

董和 まず、これらで様子をみますが、体に冷えがある人には、さらに熊柳植物や冬虫夏草を合わせます。また、鼻水が多いときは鬼菊植物(和名・こせんだんぐさ)を併用します。

大浦 鼻カゼタイプには、人参木植物より馬鞭草や柴胡の葉などが良いのですね。

董和 ええ。それは私自身の体験でも確かめています。私は長年、鼻水、鼻づまり(通年性鼻アレルギー)で悩まされてきました。体が冷えるとすぐに症状が悪化します。そういうとき、これまでは熊柳植物や冬虫夏草を大量に食べることで何とか切り抜けてきました。それが馬鞭草や柴胡の葉などを食べるようになって、ずいぶん症状が軽くなってきました。だいたい一日で良くなります。

大浦 他にも、良くなったことがありますか。

董和 私はこれまで、夜、右側を向いて寝なければなりませんでした。左を向いて寝ると鼻がつまって眠れなかったからです。それも馬鞭草や柴胡の葉などを食べるようになってからは鼻づまりがなくなり、今では右でも左でも、どちらを向いても自由に寝られるようになりました。

大浦 漢方的には、これはどのように考えられるのでしょうか。

董和 漢方では、鼻水や鼻づまりなど鼻症状が強い花粉症は「鼻カゼ」の一種に分類します。そして、こうした鼻の症状に効く漢方薬が、花粉症の漢方薬として用いられます。ただし、アレルギー体質があるので完全に治すことは難しいですが、私は馬鞭草や柴胡の葉などが鼻の症状を抑えられると考えています。

大浦 これにプラスするものとしては何が良いですか。

董和 冷えがある人は熊柳植物か冬虫夏草を、鼻水が多い人は鬼菊植物を、また少し寒気のある人は人参木植物を、かゆみの強いときは地膚子(アカザ科の植物の種)を加えるというように工夫すれば、大抵の花粉症に対応できると思います。

大浦 これくらい細かく対処したら、高い効果が得られると思います。結果が楽しみです。

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