董和先生に聴く
亀版と竜葵のはなし(上)

聞き手:大浦純孝 社長

大浦 今回は、このたび改良された「亀版などの生薬」の組み合せと、最近用いられるようになった「竜葵(りゅうき)などの生薬」についてお話をうかがおうと思います。まず第一回目は、新しくなった亀版などの生薬の組み合せについてですが、その前に今までの亀版や鼈甲などの生薬について教えてもらえますか。

董和 これまでのものは、主に漢方の「三甲複脈湯」という処方に基づいて開発したもので、亀版、鼈甲、真珠、熊柳、黄精、枸杞子、山茱萸、山薬の八種類の生薬を組み合わせたものでした。漢方の「陰虚陽亢、虚風内動」という証に用いるもので、現代では高血圧などによるめまいや、ふらつきなどの病症にお勧めしてきました。

大浦 新しく改良された亀版などの生薬の組み合せはどのようなものでしょうか。

董和 それは「二至丸」という漢方処方と、「首烏亀肉湯」というスープを参考にして、五種類の生薬を組み合わせて創ったものです。


二至丸

大浦 まず、二至丸とはどのような処方か説明してください。

董和 女貞子(じょていし)と旱蓮草(かんれんそう)という二つの生薬からなります。女貞子はモクセイ科の植物の実で、冬に採取されます。この木は冬でも葉が青いので、その様子を貞女になぞらえて女貞とよばれています。旱蓮草はキク科の植物の全草で、夏に採取できます。『医方集解』という書物には、この二つの生薬の採取季節から二至丸と名付けられたとあります。

大浦 二至丸にはどのような効果があるのでしょうか。

董和 「肝腎を補益し、陰液を増強して、虚弱の火を下げる」効果があると記載されています。中高年の健康に非常に良いとされています。

大浦 女貞子は俗にネズミモチというものですね。それで思いだしましたが、以前、人間医学社の会員の方で、福岡県に在住の方が「私の家の近くはC型肝炎の人がとても多くて、みなさんネズミモチを煎じたり、食べたりしとりますが、とてもよかとですよ」と話されていましたが、今の二至丸の効果をお聞きすると、C型肝炎にいいというその地方の伝承は結構正しいわけですね。ところで、中国には二至丸の伝説があるそうですね。

董和 はい。明時代の末に、江汝桂という名医がいました。彼は生まれつき体が虚弱で、四〇歳で既に老人のような風貌と体になっていました。ある日、彼は薬草の採取に出かけた時、山寺で百歳近い老僧に出会いました。老僧は耳はよく聞こえ、目もよく見え、白髪もなく、若者と同じように元気に歩いていたので、彼は養生の道を尋ねてみました。すると老僧は、寺の一本の大きな女貞の木を指して、「あの木の実を蜂蜜と混合し、蒸して食べると良い」と教えてくれました。彼はそれを自分で試して、すぐに女貞子の効果を確認しました。その効能をさらに高めるために、凉血補陰作用(血を涼め潤いを与える)のある旱蓮草を組み合わせて、二至丸の丸剤を製造したということです。飲み始めて半月後には効果が現われ、半年ほど続けたところ衰弱した体は健康になり、体力が倍増したそうです。


「清上補下」

大浦 効果が早く現われるようですね。

董和 伝説が本当かどうかはわかりませんが、確かに二至丸には腎陰(体を潤わせる物質)不足を補う働きがあり、体力不足、足腰の無力、ほてり、のぼせ、ノドの渇き、目の乾燥、視力低下、めまい、病的な白髪、更年期の冷えのぼせ、老衰などに効果があります。

大浦 さまざまな効果があるのですね。

董和 また『医便』という書物にも、二至丸は「清上補下」の一番良い処方で、安価なものなのに薬効が大きく、常用すると独特の効果が現われることがあると、書かれています。

大浦 清上補下とはどういう働きでしょうか。

董和 清上は、肝腎陰虚(うるおい不足)によるほてりやのぼせ、目の乾燥、寝汗、空咳などの上半身の症状を抑えるという働きです。補下は、足腰がだるい、無力、疼痛などの下半身の衰弱症状を補うという働きです。

大浦 合わせて全身の症状が改善できるということですね。これには副作用はないのでしょうか。

董和 女貞子も旱蓮草も体に優しい生薬で、胃腸障害などを起こさないのが特徴です。二至丸と似ている漢方薬に杞菊地黄丸や六味丸などがありますが、これらには胃腸障害を起こしやすい地黄が配合されているので、胃腸の弱い人や長期間服用される人にはあまり勧められません。その点、二至丸はそのような心配はありません。

大浦 その後も二至丸は改良が重ねられていったそうですね。

董和 『簡便方』という書物の中に、女貞子と旱蓮草に桑椹子(そうじんし=桑の実)を加えるとより著効があるとあります。桑椹子を加えることにより腎陰を補う働きが高まります。このようにして二至丸は、伝説の百歳に近い老僧の女貞子一味から、旱蓮草を加えた二味になり、さらに桑椹子を加えた三味へと改良されてきました。


首烏亀肉湯

大浦 もう一つの首烏亀肉湯というのはどのようなスープでしょうか。

董和 私は、何首烏(かしゅう)と亀の肉などが入っているスープの作り方が載っているホームページを見つけました。

大浦 その二種類だけから成るスープですか。

董和 他に、旱蓮草と桑椹子と女貞子が加えられていました。これはつまり、亀の肉と何首烏に二至丸を加えたスープということになります。

大浦 どのような症状の人が飲むスープでしょうか。

董和 腎陰不足の人で、高血圧やめまい、耳鳴り、目がくらむ、まぶしい、目の乾燥感や痛み、視力減退、寝付きが悪い、夢が多い、足腰がだるい、健忘、遺精、白髪、便秘、そして舌に赤みが強いなどの症状があれば、このスープはとても効果があります。

大浦 そこで先生は、二至丸とこの首烏亀肉湯を参考にして、亀版を主材にした新しい組み合せを考えられたのですね。

董和 はい。亀版、女貞子、旱蓮草、桑椹子と何首烏の代わりに山茱萸を入れて、五種類からなる新しい組み合せを創りました。これは、主として腎陰虚の潤い不足の方にお勧めします。これまでの亀版・鼈甲などの組み合せより、もつと幅広い症状の人に使えるようになりました。


亀版の働き

大浦 主材となっている、亀版とはどのような生薬でしょうか。

董和 亀版はイシガメ科のクサガメの腹甲(甲羅の腹側)を乾燥したものです。

大浦 成分はコンドロイチン硫酸やコラーゲンなどが多いのでしょうか。

董和 現代栄養学的にはそうだと思います。漢方では、動物生薬の中で、鹿茸(鹿の幼角)と亀版は最も代表的な滋養強壮薬です。そして、鹿茸が「補陽の王様」、亀版は「補陰の女王」といわれます。亀版は生薬の中で、陰液を増やし、体に潤いを増やす働きが一番強いものです。
 二至丸に含まれる女貞子、旱蓮草、桑椹子にも滋養強壮の効果はありますが、これは効き目が緩やかで、四、五十代までの人なら効果があります。しかし、高齢の方は腎虚が著しく、もつと強力な補陰、滋養強壮作用のあるものが必要となります。

大浦 それが亀版なのですね。その補陰について簡単に説明していただけますか。

董和 漢方では人間の体は「陰」と「陽」の両方で構成されていると考えています。陽は体を温める働きがあり、陰は体を潤す働きと熱を下げる働きがあります。生薬の麦門冬や乾地黄、沙参、玉竹、黄精などにも、補陰(潤いを与える)の働きがあります。女貞子と旱蓮草も補陰薬ですが、これら補陰薬の中で一番力が強いのが亀版です。

大浦 西洋医学には、そもそも補陰という概念がありませんね。

董和 そうですね。補陰薬が必要な症状は現代人にはたくさんあります。ノドや口の渇き、ほてり、のぼせ、肌の乾燥、病的な白髪、視力低下、足腰がだるいなどです。

大浦 補陰薬が適する人の簡単な見分け方はありませんか。

董和 簡単に言いますと、暑がりの体質ですが、特に舌の状態を見ることがポイントとなります。舌の肉の色に赤みがあれば亀版のものが使えます。舌の肉の色が白い場合は使えません。

大浦 舌の苔はどうですか。

董和 舌苔はあまり関係ありません。舌の肉が赤ければ大丈夫です。

大浦 ドライマウス(口の乾燥)やドライアイ(目の乾燥)なども補陰薬を使う目標になりますか。

董和 なります。高血圧、糖尿病、結核、自律神経失調症、更年期障害、歯の痛みなどで、体が熱く、舌の肉に赤みがあれば、ほとんど陰液不足です。


山茱萸の効果

大浦 何首烏に代わる「山茱萸」には、何か特別な効果があるのでしょうか。

董和 山茱萸はハルコガネバナの果実です。温性で補腎陽の作用があり、肝・腎の働きを高める効能があるとされます。

大浦 これを加えることで亀版などの組み合せにどのような影響があるのでしょうか。

董和 中国の医学は「天地の道理とは、陰陽の気によって万物を生成化育するものである」と説いています。

大浦 どういう意味でしょうか。

董和 これは「陽の中にも陰があり、陰の中にも陽がある。陰陽が互いに交わり、変化が生じる」ということです。補陰のものばかりでなく、その中に補陽のものを入れると、これが「画竜点睛」のように働き、陽は陰の力によって、陰は陽の力によって、お互いの力が高まり、体力が旺盛になる、ということです。

大浦 こういう考え方は現代医学・薬学にはない独特の考え方ですね。面白いですね。「画竜点睛」のように働くのが山茱萸なのですね。

董和 はい。亀版、女貞子、旱蓮草、桑椹子といった補陰薬の中に、補陽薬を一味配合することによって、「画竜点睛」のように働き、補腎陰の効果が高まるのです。


亀版などの生薬

大浦 亀版などを合わせた新しい組み合せは、どのような症状のある方に有効でしょうか。

董和 この五種類の組み合せは、病的な白髪、目の乾燥感、視力低下、めまい、ほてり、のぼせ、ノドの渇き、寝汗、足腰がだるい、無力感など、日常よくみられる症状によいものです。さらに、慢性の消耗性疾患や老人性疾患、虚弱体質、乾燥肌、骨蒸潮熱、空咳、肺・気管支の出血、不正出血、生理過多、更年期の冷えのぼせ、不妊症、貧血などがある方にもお勧めできます。

大浦 骨蒸潮熱とばどのような症状でしょうか。

董和 毎日一定の時間になると熱感と発熱が現われるのを「潮熱」といいます。「骨蒸」は、骨の深い所から熱が出るような感じです。ですから、いつも午後や夕方になると、微熱あるいは頬部の紅潮、手の平や足の裏のほてり、体の熱感が現われますが、夜半か早朝には汗が出て熱感がなくなるのを「骨蒸潮熱」といいます。

大浦 じつにいろいろな症状に使えるのですね。

董和 もう少し具体的に言いますと、次のような病症の方にもお勧めできます。
   ①目がかすむ、目がくらむ、まぶしい、目の乾燥感や痛み、視力減退。
   ②ほてり、のぼせ、ノドの渇きを伴うめまいや慢性病、老衰、虚弱体質。
   ③ほてり、のぼせの症状がある方で、骨粗鬆症や腰痛、関節痛のある方。
   ④ほてり、のぼせ症状があり、なかなか妊娠できない方。
   ⑤乾燥肌、老人性掻痒症。
   ⑥漢方薬の杞菊地黄丸、六味地黄丸、知柏地黄丸、麦味地黄丸、天王補心
     丸の 利用者す べての方。


視力の改善


大浦 先生ご自身も、この新しい亀版などの生薬を食べられて、とても目に良かった体験があるそうですね。

董和 ええ。昨年の三月、歯の痛みのために食べ始めました。その歯の痛みについては次回お話しますが、毎日食べ続けて二点ほど実感したことがあります。その一つが、視力の改善です。私は老眼と軽い白内障があり、外では人の顔はハッキリ見えず、顔の輪郭ぐらいしか分かりませんでした。

大浦 目の乾燥はあったのですか。

董和 目の乾燥というより、目の不快感がありました。特に左目の不快感は強く、目に膜が張っているような感じで、車の運転をするときは不便でした。また、高速道路では目を凝らして運転するので痛みも出ました。そんな時は、濡れティッシュで目を冷やしたら気持ちが良いだろうな、ということばかり考えて運転していました。眼科では両目の網膜の黄斑部に少し浮腫があり、加齢性黄斑変性症だと言われました。確かに、眼底写真を見てみると火口のように膨らんでいました。

大浦 障子などの桟を見てゆがみがあるのですか。

董和 少しあります。特に左目は黄斑部の中心部に浮腫があるので見づらいです。膜を張ったような感じは白内障のためのようです。

大浦 亀版などの生薬を食べられた結果はどうだったのでしょうか。

董和 今まで、目の改善に役立つものをいろいろ試してみました。私の場合は、最初は良いのですが、しばらくすると効かなくなりました。ところが、新しい亀版などの生薬は、そのようなことはなく確かに効果がありました。

大浦 シャエンシなどの生薬も併せた方がよいのでしょうか。

董和 シャエンシなどの生薬は、温性(体を温める)で補血強精の働きがあり、肝血虚(肝の造血不足)による視力低下などに役立ちます。また亀版などの生薬は凉潤の性質があり、肝腎の陰虚(潤い不足)による視力低下や目の乾燥に役立ちます。目の乾燥感や老眼、白内障の初期には、亀版などの生薬だけでも効果があります。


夜間尿

大浦 亀版などの生薬を食べられて、もう一つ実感されたのはどのようなことでしょうか。

董和 夜間の尿の回数が減りました。もともと私は、夜中に二~三回トイレに起きていました。ところが、亀版などの生薬を食べ始めたら、それが一回になりました。

大浦 夜間頻尿には、桑螵蛸(そうひょうしょう)などの生薬がよいということでしたね。

董和 昼も夜も頻尿であれば桑蝶蛸などの生薬の方がよいですが、私は夜間だけの頻尿でした。

大浦 夜間頻尿は、眠りが浅くてトイレに行くという人が結構いますが…。

董和 私も眠りが浅い方だと思います。以前は、夜中に目が覚めたら尿が溜まっている感じがして、トイレに行っていました。亀版などの生薬を食べ始めてからも、夜中に一度トイレに行きますが、目が覚めても尿が溜まっている感じはしなくなりました。このことから、前立腺肥大症の改善にも期待できると思っています。

大浦 新しく考案された亀版などの生薬が役立ちそうな方はたくさんいると思います。次回、もう少し亀版などの生薬のお話と、ガンや自己免疫疾患などに役立つという「竜葵(りゅうき)などの生薬」のお話をしていただくことにします。