董和先生に聴く
健康で長生きの話(上)
聞き手:大浦純孝 社長


大浦 現在、日本人の平均寿命は、男性が七十九歳、女性が八十六歳を超え、日本はますます高齢化しています。一方で、晩年に介護を必要としたり、寝たきりになったりする期間が、男性で7~8年、女性で約10年もあります。そこで今回の対談では、誰しも望んでいる、健康で長生きできる方法についてうかがいたいと思います。

董和 年齢とともに人は老化していきます。この老化を緩やかにし、健康寿命を延ばす手助けとなるものとして、新しく「仙茅などの生薬」を考案しました。


老化と老衰

大浦 仙茅などの生薬について解説していただく前に、老化について教えていただこうと思います。年をとるにしたがって肉体的・精神的機能が衰え、だんだんと老化現象が現われてきます。また、日常はあまり使わない老衰という言葉もありますが、老化現象と老衰はどのように違うのでしょうか。

董和 老化現象と老衰では、体に現われる症状の程度が違ってきます。老化現象でよく見られる症状は、白髪や脱毛、視力の低下、聴力の低下、耳鳴り、歯のぐらつきや欠損、物忘れ、動作の緩慢、足腰のだるさなどです。

大浦 漢方的には老化現象は何歳くらいから現われると考えられていますか。

董和 中国最古の漢方の原典『内経・素問』の中に「女性は三十五歳になると、陽明経(顔に関係のある経絡)の脈が衰え始めるから、顔にやつれが出始め、髪の毛も抜け落ちる。男性は四十歳になると腎気が衰え始める。腎は骨の主なので歯は痩せて、艶がなくなってくる。髪の毛は腎気に養われているから抜け落ち始める」と記載されています。

大浦 確かに外見的に見ても、男女とも三、四十代から老化現象が現われる人がいますね。では、老衰ではどのような症状がみられるのですか。

董和 老衰は老化と同じように用いられますが、老化現象より全身の各機能が非常に衰えた状態を指します。各機能の衰えによって様々な症状が現われますが、一番よくわかる症状は「足」に現われます。


老衰は足にくる

大浦 「老化は足から」とよく言われますが、老化現象と老衰では足に現われる症状は違うのでしょうか。

董和 老化現象の場合は、足がだるい、腰がだるいというように足腰の筋肉が弱くなってきます。老衰の場合は足に力がなくなり、歩けなくなることもあります。

大浦 確かに、足に力が入らないと歩くことはできませんね。

董和 私の近所でも、自分の家の周りを歩いているお年寄りを何人も見かけます。はじめのうちは元気よく歩いているのですが、年とともに歩くスピードが遅くなってきます。そして、最後には歩いている姿を見かけなくなります。

大浦 動物は歩けなくなると、エサにありつけなくなって死んでしまいますが、人間にとっても歩けるということは非常に大切なことですね。

董和 歩くことができなくなると、あまり長く健康状態を保つことができなくなります。これは犬などの動物についても言えます。

大浦 足の筋力が衰えてくるためでしょうか。

董和 症状は足に現われていますが、足だけの問題ではなく、体全体の各機能が非常に衰えたことにより、気力が弱り、立ち上がる力がなくなってくるのです。


老化は腎虚

大浦 漢方的には老化現象や老衰はどのように考えているのでしょうか。

董和 漢方では、人間の老化現象や老衰は「腎」と深く関係していると考えられています。

大浦 その腎というのはどのようなものでしょうか。

董和 西洋医学でいう腎臓の機能も含みますが、成長、発育、生殖など生命の根源的な働きを指して腎と呼んでおり、その生理機能はいろいろとあります。その一つに「腎は精を蔵す」という働きがあります。

大浦 「精」というのは?

董和 腎が蔵する精は「腎精」と呼ばれ、生命の根であり、生命の元というべきものです。その腎精は「先天の精」と「後天の精」から構成されています。先天の精は、生れながらに両親から受け継いで持っている生命力です。

大浦 「精」はエネルギーとは違うのですか。

董和 精は食べ物から得た栄養物質を指し、これが転化してエネルギーになります。これを「腎気」といいます。先天の精は使いっぱなしでは減少してしまいますから、これを補う必要があります。それが「後天の精」の役割です。後天の精は脾胃(消化吸収機能)の働きによって得られます。しかし、年とともに脾胃の働きが衰え、腎精も弱ってきます。

大浦 腎には実証はなく、虚証だけがあるそうですね。

董和 腎精はあくまでも使うもので、貯蔵がきかないため、補わなければ減ってしまいます。そこで腎には虚証(腎虚証)のみあると考えられています。


腎の陰陽

大浦 ということは、老化現象や老衰の症状は、ほとんど腎虚となるのですね。

董和 そうです。腎にはさまざまな働きがありますが、これを行なわせる本体は「腎気」です。腎精と腎気を一緒にして「腎の精気」と呼ばれます。

大浦 腎の精気はどのような働きをしているのですか。

董和 腎の中には「腎陰」と「腎陽」があります。陰陽で分けると、精は陰に属するので腎精は腎陰とし、気は陽に属するので腎陽とされます。

大浦 それぞれどのような働きがあるのか教えてください。

董和 簡単にいえば、陰は全身を潤す働き、陽は全身を温める働きです。健康な体では陰と陽がお互いに五分五分で、バランスよく体の平衡を保っています。

大浦 ということは、老化や老衰になると陰陽のバランスが崩れることになるのですね。

董和 老化現象のときには、陰陽のどちらかが不足状態になることがあります。どちらが減るかは人によって違います。また両方減ることもありますが、陰が減る人の方が多いように感じます。

大浦 老化現象のときにはどのように対処すればいいのですか。

董和 腎虚には、補腎薬(腎の機能を高めるもの)で対処していきます。腎陰が不足したときには「六味地黄丸」、腎陽が不足したときには「八味地黄丸」が代表的な漢方薬です。食品では陰の不足には「亀版などの生薬」を、陽の不足には「鹿茸などの生薬」を用います。


軽い陰陽分離

大浦 では、老衰のときは陰と陽はどのような状態になるのですか。

董和 老衰のように極度に陰陽が不足すると、陰と陽が離れていきます。これを「陰陽分離」と言います。中国に「腎為水火之宅」という言葉がありますが、元々陰と陽はお互い結合した状態で一つになって腎の中に存在すると考えられています。

大浦 陰陽分離が起こると、例えばどのような症状が現われるのですか。

董和 陽は常に上昇する性質があるため、陰から離れた陽は上半身に昇っていきます。これを「虚陽上浮」または「虚陽浮越」と言います。

大浦 このよう状態は、老衰以外でも起こりそうですね。

董和 あります。例えば、更年期障害や、体力低下、慢性病、軽い熱射病などでも起こります。この場合は一時的に起こった軽い陰陽分離といえます。

大浦 こういう場合、例えばどのような症状が現われるのですか。

董和 主に下半身が冷え、上半身が熱くなり、いわゆる冷えのぼせの状態が起こります。

大浦 最近は、女性の冷えのぼせが多く、上半身に汗をかくという人も珍しくないようですが、このような場合はどのようにすればいいのですか。

董和 更年期の女性はホルモンバランスの変調によって、一時的に軽い陰陽分離が起こります。このようなときには「亀版などの生薬」と「白花草」を合わせて用います。また「アカラフマなどの生薬」を併用することもあります。


「引火帰元」

大浦 では、重い陰陽分離ではどのような症状が現われるのでしょうか。

董和 初めにも言いましたように、足に力が入らなくなり、また突然倒れて意識障害を起こしたり、運動障害や言語障害になったりすることがあります。現代医学でいう虚血性脳疾患の症状です。これは年老いて腎の中にある陰が非常に減ることで、陽が陰から離れて体の上半身に浮いてしまうために起こります。

大浦 虚血性脳疾患以外で、重い陰陽分離が起こることはありますか。

董和 体が非常に衰え全身に力が入らない状態や、病気による多臓器不全、重度の熱射病などでも起こることがあります。これは大変危険な状態です。さらに陰陽分離が進むと、陰と陽が全て消えてしまい「陰陽離決」になってしまいます。これは死につながることになります。

大浦 このような非常に重い陰陽分離に対しては、どのように対処すればいいのですか。

董和 上昇した陽を下の腎に戻し、陰と陽を再び結合させる方法を採ります。この方法を「引火帰元」と言い、重い陰陽分離のときには大々的に補陰する必要があります。このことを「大補腎陰」といいます。

大浦 具体的には、どのようなもので対処するのですか。

董和 漢方薬では「地黄飲子」という補腎薬を使います。

大浦 日本ではあまり使われない処方ですが、どのような生薬の組み合わせなのですか。

董和 熟地黄、巴戟天、山茱萸、石斛、炮附子、五味子、肉桂など十五種類の生薬からなる処方です。中国では「瘖痱症」(いんぴしょう)の治療に対して非常に効果があるとされています。

大浦 瘖痱症とは初めて耳にする言葉ですがどのような病気のことでしょうか。

董和 瘖は、言葉が出ない状態(言語障害)のことです。痱は、四肢に力が入らず動けなくなる状態をいいます。特に、上半身より下半身に力が入らないことが顕著で、寝たきりに近い状態になります。私も中国で内科医をしていた時、この処方で瘖痱症の人を治した経験が何度かあります。

大浦 現代医学でいう虚血性脳疾患(脳血栓症や脳塞栓症)の後遺症として現われる病状とは違うのですか。

董和 よく似ています。言語障害や意識障害などがあり、足に力がなく立ち上がれないなどが主な症状です。ただ、半身不随になるとか、しびれや痛みがあるということはありません。


「仙茅などの生薬」

大浦 そこで地黄飲子を参考にして、新しい生薬の組み合わせを考えられたそうですね。

董和 仙茅(せんぼう)という植物を主材に、西洋人参、亀の腹殻、黄精、玉竹、山茱萸など十五種類の生薬を合わせたものです。これは地黄飲子と同じように大補腎陰の処方で、上半身に昇った陽を腎に戻す働きがあります。

大浦 次回に詳しく説明していただきますが、主材である仙茅について教えていただけますか。

董和 仙茅はヒガンバナ科のキンバイザサ(金梅笹)の根茎です。これは補腎の力が強く、長く飲めば足に力が出てきます。

大浦 言語障害や寝たきり状態といった重い症状以外には、仙茅などの生薬はどのような人にお勧めできるのでしょう。

董和 体力が低下している方、足が弱っている方、冷えのぼせがある方、虚血性脳疾患の後遺症のある方などにお勧めします。とくに高齢の方にはお勧めです。

大浦 新しく考案された仙茅などの生薬は、長寿社会を迎えて健康で長生きを望まれる方には福音になると思います。その他の生薬と使い方については次回に詳しく説明していただくことにします。