董和先生に聴く
健康で長生きの話(下)
聞き手:大浦純孝 社長


大浦   引きつづき、健康寿命を延ばす手助けとなる「仙茅(せんぼう)などの生薬」の使い方について説明していただこうと思います。これまでのお話で仙茅などの生薬は、ほとんどの高齢の方や、足に力が入らない、足腰がだるい、歩くのがつらいという方にお勧めということでしたね。

董和
 「老化は足から」「老衰は足にくる」のですから、人間は歩くことができなくなれば、良い健康状態を長く保つことができなくなります。仙茅などの生薬を食べていると足に力が出てきて、元気に歩くことができるようになります。歩くことができれば全身の機能が高まり、老化を遅らせる手助けにもなります。

ふるえ

大浦
  先日も、あごと両手がふるえ、足が非常にだるく、足に力が入らなくて歩きにくいという七十歳代の女性から相談を受けたので、仙茅などの生薬をお勧めしました。その方は、しばらくすると足に力が入るようになり、やがてふるえも止まったといって喜んでおられました。

董和  足に力が入らないのは、前回もお話しましたが、年とともに腎の中の陰陽のバランスが崩れてくるためです。腎の中の陰が減り、陽が陰から離れて体の上の方に昇ってしまうのが原因です。

大浦  いわゆる「陰陽分離」ですね。

董和  そうです。仙茅などの生薬は、上に昇った陽を下に降ろして腎に戻し、陰と結合させるようにします。それによって陰と陽がお互いに生理機能を発揮し、足に力が入るようになります。

大浦  では、ふるえはどうして起こったのですか。

董和  この方のようなふるえを、漢方では「内風」といいます。内風は「肝」の機能失調によって起こります。

大浦  漢方でいう肝とは、どのようなことを指しているのですか。

董和  西洋医学でいう肝臓の機能も含みますが、自律神経系や中枢神経系、運動系、視覚系などの幅広い生理機能を指して「肝」と呼びます。その一つに「肝は血を蔵す」という働きがあります。

大浦  具体的にはどのような働きですか。

董和  それは肝に血液を貯蔵し、全身の血液量を調節する働きです。この働きがうまくいかなくなると肝血(肝に貯蔵している血液)が不足し、筋脈(スジや血管)に栄養や潤いが行き渡らなくなり、ふるえが生じます。これを「血虚生風」と呼びます。

大浦  なぜ肝血不足になるのですか。

董和  それには「肝は血を蔵し、腎は精を蔵す」という肝と腎の働きが関わっています。

大浦  「肝腎要」という言葉が肝と腎の深い関わりがあることを示していますが、漢方医学では肝と腎にはどのような関わりがあると考えているのですか。

董和  漢方では腎と肝は親子関係にあり、腎精(生命の元)が多くなれば、肝の血に変わると考えています。反対に、肝の血が多くなれば、腎精に変わります。この関係を指して「肝腎同源」といいます。この女性の場合は、腎の衰えにより腎精が不足し、肝血不足となり、ふるえが起こったのです。

大浦  仙茅などの生薬にはそれらを改善する働きがあるのですね。

董和  はい。仙茅などの生薬には、衰えた腎を回復させて腎精を増やす働きがあります。腎精が多くなると、肝血も増え、筋脈に栄養が行き届くようになり、ふるえが止まります。

腰痛

大浦  足腰がだるいときには仙茅などの生薬が役立つということですが、腰の痛みにはどうでしょうか。

董和  漢方では「腰は腎の外肺」といわれ、腰は腎と深い関係にあります。とくに慢性の腰痛の多くは「腎虚」によって起こります。そのため、腰痛には補腎(腎の働きを高める)作用のあるものが必要になります。

大浦  仙茅などの生薬には補腎作用がありますね。

董和  そうです。ただ、腰に痛みがあるときには、基本的には「骨砕補などの生薬」を用います。補腎・強筋骨(骨や筋肉を丈夫にする)の働きがあり、血流改善や鎮痛効果などもあります。

大浦  骨砕補などの生薬は、腰痛以外には、どのような症状の方に有効ですか。

董和  四肢の変形性関節炎やヘバーデン結節、骨折、打撲、捻挫などの改善に有効です。また、変形性頸椎症に伴う肩や首のこり・しびれなど、多くの症状に用いて、皆さんに喜ばれています。

大浦  高齢の方の腰痛には、骨砕補などの生薬だけで良いでしょうか。

董和  高齢になると腎虚が強くなるので、もっと補腎する必要があります。それには強力な補腎作用がある仙茅などの生薬を併用すれば、より効果的です。また、痛みが強いときは「ツボ草などの生薬」を併用します。

大浦  腰に痛みがなくて、だるいだけなら仙茅などの生薬のみで良いのですね。

董和  十分だと思います。

「胃気」を高める
大浦  仙茅などの生薬は、他にはどのような症状のある方にお勧めできますか。

董和  舌の苔がない方や少ない方にもお勧めします。

大浦  舌の苔を見ていると、体調によって変化しますね。どのような状態になると苔が少なくなるのですか。

董和  中国には「苔為胃気所生」という言葉があります。舌苔は「胃気」から生まれるもので、胃気がなければ苔は生じないという意味です。

大浦  その胃気とはどのようなものですか。

董和  胃気とは、胃の消化機能および五臓六腑の生理機能を指します。苔が少なくなるのは、五臓六腑の生理機能が低下してきている証拠です。五臓六腑が健康であれば、舌苔が必ずあります。

大浦  年齢とともに五臓六腑の働きが衰えてくると、舌の苔が少なくなってくるのですね。

董和  舌苔がない、舌苔が少ないというのは、生命力が弱ってきていることを示しています。「有胃気則生、無胃気則死」といって、胃気と生命力および老衰とは深く関係しています。

大浦  つまり舌苔がない、あるいは舌苔が少ないというときに仙茅などの生薬が役立つのですね。

董和  仙茅などの生薬の補腎作用により、五臓六腑の働きが強化され、胃気が高まり、舌苔が生じてきて、元気を取り戻してくれます。

認知症
大浦  人口の高齢化に伴って増えている認知症の人に、仙茅などの生薬は役立ちますか。

董和  私が中国で内科医をしていた時、認知症の患者さんの舌を診ると、ほとんどの人は苔がなく、ツルツルでした。

大浦  確かに認知症の方は生命力が弱ってきている感じがしますね。

董和  漢方では、認知症の原因は腎精不足と考えています。「腎は髄を生じ、脳は髄の海である」といわれ、脳の発育や機能は腎によって維持されています。年とともに腎精が不足すると、脳の働きが衰えてきます。

大浦  腎と脳は深い関係にあるのですね。

董和  そうです。その上、腎精が不足すると血管が細くなることがあります。脳の血管が細くなれば血流が悪くなり、認知症の原因にもなります。

大浦  認知症の改善には、脳の血流だけでなく、腎の働きも高めないといけないわけですね。

董和  ええ。仙茅などの生薬は腎精不足の改善に役立ちますから、認知症の予防や改善の手助けになります。

糖尿病
大浦  仙茅などの生薬は、糖尿病の改善にはどうでしょうか。

董和  糖尿病は、基本的には血糖のコントロールに役立つ「黄耆茎葉などの生薬」を勧めています。そして「陰陽両虚」であれば仙茅などの生薬を併せた方がより効果的です。

大浦  陰陽両虚というのは、糖尿病の進行状況でいえばどのような状態ですか。

董和  糖尿病は進行していくと陰虚(潤い不足)になり、さらに進むと陽虚(エネルギー不足)となります。末期になるとほとんどの人が陰陽両虚(両方の不足)となります。

大浦  では、陰虚のときにはどのようなものが役立ちますか。

董和  ほてりやのぼせ、口やノドの渇きなどがあれば陰虚です。これには、黄耆茎葉などの生薬に「亀版などの生薬」を併せて摂ると効果的です。

大浦  では、陽虚のときにはどのようなものが有効ですか。

董和  元気がない、寒がり、手足が冷える、顔色が悪い、尿量が多いなどが陽虚の症状です。これには、黄耆茎葉などの生薬に「鹿茸などの生薬」や「羊胎盤などの生薬」などを併せて摂ることをお勧めします。

大浦  陰陽両虚とは、陰虚や陽虚単独よりもさらに病状が進行した状態ということですね。

董和  そうです。糖尿病の末期になると、陰虚と陽虚両方がまじりあって現われます(陰陽両虚)。体が痩せてきて、体力も低下し、夜間尿や頻尿などの症状が多くみられるようになります。こうなると、黄耆茎葉などの生薬に、陰陽両虚の状態を改善する仙茅などの生薬を併せて摂ることが必要になります。

年齢にかかわらずお勧め!
大浦  仙茅などの生薬は、漢方でいう腎精不足などに役立つということですが、現代医学でいう腎臓病の改善には役立ちますか。

董和  役立ちますが、慢性の腎臓病には「冬虫夏草」を併せることをお勧めします。その他の慢性病やガン、寝たきりの方なども、陰陽分離の状態になることが多いので仙茅などの生薬は役立ちます。そして何より、足がだるい、足に力が入らないという方にお勧めです。

大浦  先日、五十歳代の女性から「急に足腰が何とも言えないくらいだるくなった」という相談を受けました。このようなときにも仙茅などの生薬はいいですね。

董和  はい。更年期の女性はホルモンバランスの変調によって、一時的に軽い陰陽分離が起こります。そのため冷えのぼせばかりでなく、この方のように足がだるくなることがあります。こういうときにも仙茅などの生薬が勧められます。

大浦  高齢の方だけではなく、若い人や中年の人にも役立つのですね。

董和  年齢に関係なく若いときから少しずつ食べていると、生命の元である腎精を旺盛にしてくれます。

大浦  仙茅などの生薬が、いつまでも健康そして長生きに役立つものとして期待できるのは、そこに秘訣があるのですね。

本日はどうもありがとうございました。

(了)