董和先生に聴く
かぎかずらの話(上)  

聞き手:大浦純孝 社長

大浦 今回は、頭痛や高血圧、ひきつけなどに用いられる「かぎかずらなどの生薬」についてお話ししていただけるということですね。それでは初めに、このかぎかずらなどの生薬を構成しているカギカズラ、白僵蚕(びゃっきょうさん)苦丁茶(くちょうちゃ)灯盞花(とうさんか)という四つの生薬についてお聞きしたいと思います。
まず、主材であるカギカズラはどのような植物なのか説明していただけますか。

董和 アカネ科の蔓性の木で、長さが10m以上になることがあります。日本では関東以西の山地に自生しています。花は六月~七月頃、緑白色で直径2㎝ほどの球形の頭状花序(ネギ坊主ような小さな花の集まり)をつけます。茎には葉のつけ根から釣り針のようにかぎ状になったトゲが出ているのが特徴です。このトゲはバネのようにかなり強い弾力性があります。このトゲの付いた茎の部分を採取、乾燥させたものが 「釣藤鈎」 (ちょうとうこう)という生薬です。主に鎮痛、鎮静、血圧降下作用などを目的とする漢方薬に使われます。

大浦 生薬の中でもトゲの部分を使用するものは珍しく、名前も釣り針に似ていて覚えやすいですね。釣藤鈎は、清熱(体の内部の熱を冷ます)平肝(肝の機能を整える)止痙(けいれん発作を鎮める)の作用があり、高血圧やけいれん、引きつけ、めまい、立ちくらみなどに用いられていますね。この釣藤鈎にはどのような成分が含まれているのですか。

董和 インドールアルカロイドのリンコフィリンやヒルスチンなどを含んでいます。これには鎮静、血圧降下などの作用があり、釣藤散や七物降下湯などの漢方薬に処方されています。

カギカズラの葉

大浦 生薬のカギカズラはトゲを含む茎の部分を使っていますが、先生はカギカズラの葉の部分だけを利用されていますね。葉にもトゲの部分と同じように効果があるのですか。

董和 中国の南方医科大学中医薬学院で、カギカズラのトゲの部分と葉の部分のどちらに鎮静・催眠作用があるのかをマウスを使って比較した研究データがあります。それによると、葉の部分の方が鎮静作用が強いとされています。また、使用する量が多いほど効果が高まるとも報告されています。

大浦 中国では葉は一般に売られているのですか。

董和 中国の江西新一代薬業有限公司という会社から、カギカズラの葉に金銀花や山梔子、はちみつなどを組み合わせた「釣藤茶」というお茶が健康食品として販売されています。主に小児の胎毒や黄疸、消化不良による腹痛などに使われています。

大浦 日本ではカギカズラを用いる場合、トゲ以外の部分を使うことがありますか。

董和 確かに、日本では生薬のカギカズラはトゲを含む茎の部分だけが薬用として使われています。しかし、他の部分の薬効についても研究されており『日本東洋医学雑誌』には、以下のように記載されています。
「カギカズラの薬用部位は、中国明代前半までは藤皮(樹皮)だったが、明代後半から現在のようなトゲを含む茎の部分に変化した。薬用部位が変化した理由として、中国明代の本草家が『藤皮よりもトゲの部分の方が効力が強い』としていることを挙げている。そこで、本研究では日本薬局方の釣藤鈎の規定に基づき、日本産カギカズラの藤皮とトゲの総アルカロイド(リンコフィリン及びヒルスチン)含有率を比較した。その結果、藤皮の方が有意に含有率が高いことが明らかになった。アルカロイド含量で評価する限りは、藤皮の方が薬効的に優れていると判断する」とあります。

大浦 ということは、生薬のカギカズラはトゲを含む茎の部分だけを使用していますが、実際はトゲの部分だけが効くとは言い切れないということですね。つまり、カギカズラは、藤皮や蔓、葉などの部分も薬用として使えるというわけですね。

董和 そうだと思います。ただ私は、カギカズラの効果は使用部位だけの問題ではないと考えています。先の南方医科大学中医薬学院の研究結果のように、使用量が多いほど治療効果が高いということも関係あると思います。

大浦 そうですか。今回新しく創られた「かぎかずらなどの生薬」に組み合わされているカギカズラは葉の部分を使用され、さらに含有量も多くして効果を高め、なおかつ安心して使えるように工夫されているわけですね。ところで、生薬としてのカギカズラはよく子供に使われていますが、実際に中国でもそうした使い方をされているのですか。

董和 ええ。カギカズラの薬性が温和なことから、昔から小児の発熱やひきつけ、チック、驚きやすい、夜泣きなどに使われています。最近は子供にだけでなく大人の疾患にもよく利用されています。

大浦 高血圧などにもかなり効果のある薬草ということですが、実際はどうなのでしょうか。

董和 高血圧の治療はもちろんのこと、頭痛やめまい、手足のけいれんなどにも使われています。中国の『中薬大辞典』に、カギカズラによる高血圧の治療の症例報告が記載されています。それは、高血圧の患者さん100人以上にカギカズラ単品だけを煎じて服用させたところ、ほとんどの人に有効であったというものです。効き方も穏やかで、徐々に血圧が下がって効果が現われています。また、血圧が下がるとともに頭痛、めまい、動悸、息切れ、不眠などの症状も改善しています。


平肝作用

大浦 カギカズラは高血圧や頭痛、めまい、けいれん、ひきつけなどに使われていますが、漢方的に見ると、どのような効果があるのでしょうか。

董和 カギカズラには平肝、清熱の作用があります。

大浦 それぞれの作用について説明していただけますか。

董和 まず、平肝作用というのは、ストレスを緩和する働きです。中国には「紅楼夢」(こうろうむ)という有名な小説があります。その中に、ストレスの緩和にカギカズラを使用したところよく効いたという記述が出てきます。それは紅楼夢の第八十四回に「金桂(薛蟠の妻)が家の中で暴れ出し、薛宝釵(薛蟠の妹)が止めようとしたが止められません。薛宝釵の母がこの騒ぎに我慢ができなくなり怒り出したところ、急に脇が痛いと叫び出しました。突然のことで医者を呼ぶ暇もないので、薛宝釵はすぐにカギカズラを煎じて母に飲ませました。するとほどなく母はぐっすり眠りに入り、目が覚めたときには脇の痛みはなくなっていた」と書かれています。

大浦 これがカギカズラの平肝作用ですね。漢方でいう「肝」は気の巡りの調節器官といわれ、ストレスがたまると肝気の巡りが悪くなりますね。

董和 はい。そうなると感情の起伏が激しくなる、イライラする、のぼせる、怒りやすくなる、興奮して眠れなくなるなどの症状が出てきます。また、薛宝釵の母のように、急にお腹や脇などに痛みが生じることもあります。


カギカズラと柴胡剤

大浦 肝気の巡りをよくする漢方薬の代表は柴胡(さいこ)剤ですね。薛宝釵の母が訴えた「急に脇が激しく痛み出す」といった症状に柴胡剤は使えますか。

董和 生薬の柴胡が配合された薬方薬を総称して柴胡剤といいます。小柴胡湯や四逆散などの処方があります。確かに、柴胡には疏肝理気(肝気の巡りを改善する)作用があります。しかし、柴胡は味が苦くて、体を乾燥させる作用や解熱・発汗作用があるため、体の陰液(潤い物質)を消耗してしまうことがあります。そのため長期間の服用は体によくありません。

大浦 その点、カギカズラはそのようなことがないのですか。

董和 はい。カギカズラにも疏肝理気作用や解熱作用はありますが、体を乾燥させたり発汗させるような作用はありません。また、カギカズラを長く飲んでいても、柴胡のように陰液不足になって体を弱めることもありません。それがまた、小児の発熱などにカギカズラがよく使われている理由でもあります。これは長期間飲まれていても安全です。


C型肝炎と小柴胡湯

大浦 よくわかりました。柴胡剤として日本では最もよく使われている小柴胡湯(しょうさいことう)は、一時、C型肝炎にも使われていて問題になったことがありますね。たしか病院で処方されていた小柴胡湯を長期にわたって服用していた慢性C型肝炎の患者さんの中に、間質性肺炎を起こして亡くなった人がいたことで問題になったと記憶しています。これは、柴胡という生薬がもつ体を乾燥させる作用が、陰液不足の傾向がある慢性C型肝炎の患者さんをさらに陰液不足に追い込んだために生じた悲劇ということができますね。しかし、この教訓はまだ十分には生かされていないように思います。

董和 A型とB型肝炎は、漢方的には湿熱肝炎(肝臓に水と熱が溜まる肝炎)と捉え、症状が激しくて、舌にネバネバした黄色い苔がたくさん出てきます。一方、C型肝炎は静かな肝炎といわれるように、自覚症状が少なく、ネバネバした苔も少なくて、肝臓が乾燥(陰液不足)していると考えられます。ところで、小柴胡湯は、柴胡、生姜、人参、半夏、大棗、黄芩、甘草の七種類の生薬からなります。特に柴胡は味が苦く、体を乾燥させる作用があります。柴胡と生姜の組み合わせは発汗作用が増強され、陰液を損傷することになります。黄芩も味が苦く体を乾燥させます。半夏は燥湿化痰(体内の水分の流れをよくし湿を除く)の働きがあり、胃腸の水分を取り除く作用があります。このように小柴胡湯は燥性が強いため、湿熱肝炎のA型肝炎とB型肝炎には使える処方だと思います。しかし、肝臓が乾燥しているC型肝炎には合わない処方だといえます。

大浦 しかし、現実にはC型肝炎の患者さんに小柴胡湯はよく使われています。何か副作用を防ぐよい方法はありませんか。

董和 小柴胡湯の燥性作用から肝臓を守るためには、別の漢方薬などで肝臓を潤してやる必要があります。例えば、肝腎を潤す働きのある六味丸と小柴胡湯を一緒に使います。ただ、六味丸には胃腸障害を起こしやすい地黄という生薬が入っているので、胃がもたれることがあります。そこで胃の弱い方には六味丸に代えて「亀板などの生薬」を用いることをお勧めします。こうすればC型肝炎の方でも小柴胡湯を長く安心して使うことができます。


清熱作用

大浦 では、もう一つのカギカズラの清熱作用について説明してください。

董和 カギカズラの清熱(体の中の熱を冷ます)作用は、肝経と心包経の熱に働きます。肝経の熱の病症は高血圧、めまい、頭痛、けいれん、のぼせ、ひきつけ、小児のチックや神経症などです。また、心包経の熱の病症は意識と関係が深く、眠りにくい、驚きやすい、てんかんのけいれん発作時の意識障害などがあります。カギカズラは心包経の熱を抑える働きがあるとともに、清心(心の機能亢進状態を改善する)作用もあり、興奮や不眠、てんかん、意識障害などにも使えます。

大浦 肝経の熱とか心包経の熱という表現は漢方医学における独特な表現ですね。このことについて少し説明していただけますか。

董和 肝の主な働きには「疏泄を主る」(リラックスする)「血を蔵す」「筋を主る」などがあります。そのため肝経が熱を帯びると、胸腹部の張った痛み、いらいら、怒りっぽい、頭のふらつき、四肢のしびれ、月経不順などの症状がみられます。一方、心包経の熱は、意識障害と関連がある症状をもたらします。例えば、てんかん、狂躁(騒がしい)、眠りにくいなどで、こうした症状があれば心包経または心経の熱と考えられます。

大浦 カギカズラの葉だけでも、高血圧、頭痛、ストレス、小児のチックや神経症など、さまざまな病気の改善に役立つのですね。次回は、カギカズラに組み合わされている他の生薬の働きなどについて説明していただくことにします。