董和先生に聴く
かぎかずらの話(中)

聞き手:大浦純孝 社長

大浦 前回に引きつづいて「かぎかずらなどの生薬」に組み合わされている生薬についてお伺いしたいと思います。前回はカギカズラの葉について詳しく説明していただきましたが、今回は、白僵蚕(びゃっきょうさん)苦丁茶(くちょうちゃ)灯盞花(とうさんか)について説明していただきます。
まず、白僵蚕についての説明からお願いいたします。

董和 白僵蚕はカイコを乾燥させたものです。ただ、普通のカイコではなく、カイコの幼虫がカビの一種である白僵菌に感染して死んだものを生薬として使います。

大浦 カイコは健康食品としてもよく使われていますね。良質のアミノ酸源としてシルクパウダーが使われたり、カイコハナサナギタケといって無菌の生きたカイコのサナギにサナギタケ菌を感染させて子実体形成まで培養して作った製品もあります。この白僵蚕は生きたカイコを利用するのではなく、白僵菌に感染して死んで白くなったカイコを使いますが、その薬理作用について教えていただけますか。

董和 薬理学的には鎮痙・催眠作用があることが分かっています。漢方的には解表(体内表面の邪気を除く)止痙(けいれん発作を鎮める)化瘀(痰を取り除く)といった作用がありますが、最大の作用は「風」(ふう)の邪気を取る働きにつきると思います。体の外からの風の邪による病気の治療に使い、カゼによるノドの痛みや頑固な頭痛によく使われています。
また、体の中から発生する風によって起こる病気の一つに中風(脳卒中)があります。白僵蚕は中風による後遺症にも使います。蕁麻疹などの痒みも風によって生じると考え、白僵蚕を用います。さらに、顔面の筋肉がピクピクとけいれんするのも、中医学では体内の風が原因と捉えており、白僵蚕が役立ちます。

大浦 風というのは現代人には分かりにくい漢方用語だと思います。脳卒中を昔は中風と言っていましたが、この「風に中(あた)る」という言葉が、まさに風というものを理解するのに役立つわけですね。
ところで、代表的なウイルス感染症の一つカゼも、中医学では風邪(ふうじゃ)の一つとして捉えているようですが、風邪には「外風」と「内風」の二つがあるとのことで、いわゆるカゼは外風に相当するわけですね。外風は外からやってくるウイルスに感染して発症する病気として理解できますが、内風というものがどういうことなのか、今一つ理解できません。もう少し内風について説明していただけますか。

董和 内風も「動く、流れる」というイメージは外風と同じですが、これが体の中から起こっていると考えられる場合に内風といいます。
その症状としては、めまい、ふらつき、ふるえ、けいれん、ひきつり、皮膚の乾燥などがあり、体の中を風が舞っている感じが想像していただけるのではないかと思います。
また、痛み、かゆみ、腫れなどが、体をあちこち移動(遊走)するという場合も、漢方では内風が絡んでいると考えています。 突然倒れて意識不明になるような脳卒中は、内風による代表的な病気です。内風に起因する熱性けいれん(高熱によるけいれん)、癲癇によるけいれん、意識障害、小児のひきつけ、手足のしびれ、また関節痛などには、白僵蚕とカギカズラがよく併用されます。

苦丁茶

大浦 では次に「苦丁茶」(くちょうちゃ)について説明をお願いします。

董和 中国では、苦丁茶として使われている植物には数種類あり、いずれも効能効果はよく似ています。私がお勧めするのは、モチノキ科モチノキ属の常緑高木の「多羅葉」(たらよう)の葉です。

大浦 日本でも見ることができますか。

董和 はい。関東から九州にかけて分布しています。雌雄異株で四~五月ごろ淡黄緑色の花を咲かせ、秋には球形の赤い実がなります。葉の裏に傷をつけると黒く変色するので文字を書くことができます。この特性が、インドで経文を書く時に使われたヤシ科の「貝多羅樹」(ばいたらじゅ)という木に似ていることから、多羅葉という名前が付いたようです。また、日本では「ハガキの木」とか「郵便局の木」と呼ばれることもあるようです。

大浦 それでしたら、日本郵政公社で平成九年に郵政省環境基本計画の一環として多羅葉を「郵便局の木」と定め、郵便局庁舎前に植樹した郵便局のシンボルツリーですね。

董和 中国ではこの木の葉を苦丁茶と呼び、葉を煎じて飲んでいます。


暑がり体質の人に

大浦 最近、若い女性の方が二、三人ですが、苦丁茶を扱っていませんかと尋ねて来られました。苦丁茶にはどのような効用があるのですか。

董和 薬理研究では抗菌・降圧作用があることが分かっています。漢方的には、疏風(風の邪気を分散させる)清熱(熱を冷ます)明目(視力を高める)などの作用があります。

大浦 主に、どのような症状に用いられているのですか。

董和 熱性の頭痛や歯痛、目の炎症、中耳炎、口内炎、イライラ、口渇、下痢などに使われています。

大浦 苦丁茶という名前から察すると苦いお茶のように思いますが、中国では一般家庭でお茶として飲まれているものなのですか。それとも、薬として他の生薬と一緒に利用されているものですか。

董和 日常的にお茶として飲用する場合と、他の生薬と一緒に合わせて用いる場合があります。

大浦 苦いお茶というのはおいしいように思えないのですが、特にどのような人が飲んでいるのでしょうか。

董和 苦丁茶は確かに苦いですが、その苦味の中にも少し甘みがあります。苦丁茶には解熱(体を冷やす)作用があり、暑がり体質の人や熱性の病気の人がよく利用しています。

大浦 暑がり体質のことは理解しやすいですが、「熱性の病気」とは具体的にどのような病気を指すのでしょうか。

董和 病気によって寒がり体質と暑がり体質に分けることがあります。 例えば、糖尿病や高血圧、甲状腺機能亢進症などの人は暑がり体質になります。また、発熱や炎症を伴う疾患も暑がり体質になります。このような時には、苦丁茶を日常的にお茶として飲んでいると体が楽になってきます。

大浦 苦丁茶は応用範囲が広そうですが、薬としてはどのような症状に用いているのですか。

董和 苦丁茶の効用としては風熱(熱っぽさ)を解消し、頭痛や眼精疲労を取り、解毒や下痢止め、去痰、鎮咳などの作用があるとされています。そのため、カゼや鼻炎、目のかゆみ、目の充血、頭痛、気管支炎などに使われています。また、消化を助け、気力と記憶力を充実させるといわれています。ただこのような場合には、大抵は他の生薬と併用しています。
なお、最近の研究によると苦丁茶には、血液循環を促進する、血圧を下げる、コレステロールなど血液中の脂質を減らすなどの効果があることが確認されています。苦丁茶は心臓や脳の機能の低下を防ぎ、ダイエットにも役立つハーブの一つとして期待されているようです。


灯盞花

大浦 そうですか。先ほどお話した若い女性たちは、おそらくダイエット目的で探していたんでしょうね。では、四つ目の「灯盞花」(とうさんか)について説明をお願いします。

董和 灯蓋花は菊科の植物で、花が灯盞(油を入れて照明の火を灯す皿)の形と似ていることから、この名が付いたといわれています。根は細く辛味があり、生薬の細辛と似ているため灯蓋細辛(とうさんさいしん)の別名もあります。

大浦 灯盞花は中国雲南省の名薬のひとつと聞きましたが…。

董和 はい。中国の雲南省では田七人参と同じくらい名薬として人気があります。田七人参は活血(血流をよくする)化瘀(古血を除く)止血の作用があります。一方、灯盞花は化瘀・通絡(経絡の気の流れをよくする)止痛の作用があることで有名です。また、この二つを合わせると相乗的に効果が高まり、心臓と脳の血管の病気によく使われています。特に、灯盞花は細い血管の瘀血を取ったり通絡作用に優れており、脳卒中や脳炎などの後遺症に効果があるとされています。

大浦 先生も灯盞花を中心に数種類の生薬を組み合わせて使われていますね。

董和 はい。灯盞花に田七人参などを組み合わせて使っています。

大浦 田七人参以外にどのようなものを組み合わされているのですか。

董和 化瘀・通絡作用のある「スイテツ」、心肺機能を高める「紅景天」と「お種人参」、清熱化痰(熱を冷まし痰を除く)の作用のある「天竹黄」(てんちくおう)と「蛇胆」、潤いと強心作用のある「玉竹」(ぎょくちく)、清心安神(心の熱を除き精神を安定させる)の作用のある「真珠」と「サフラン」を組み合わせています。

大浦 以前にもお話しいただいた「灯盞花などの植物」というのがそうですね。これは脳梗塞や脳血栓、脳卒中後遺症、耳鳴り、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞症)、動悸、息切れ、胸悶(胸苦しい)、胸痛、肺気腫、酸素不足などの改善にお勧めできるということでしたが、脳梗塞、脳血栓、脳卒中後遺症というと、ミミズ酵素を主にした製品のことが思い浮かびます。これとの違いと言いますか、どういうところに「灯盞花などの植物」の特徴があるのでしょうか。

董和 ミミズ酵素を製品化したものについてはよくわかりません。ただ、生薬のミミズは「地竜」といって日本では医薬品になっています。地竜は、漢方では寒性(体を冷やす働き)で、肝の熱を冷まし、熱性のけいれん(ひきつけ)や高血圧、頭痛、喘息などに使われます。また、通絡作用があるので脳卒中後遺症に用いられたり、利尿作用があるので浮腫に用いられたりしています。
ミミズ酵素の製品と灯盞花などの植物は違うものなので比べることは難しいです。ただ、灯盞花などの植物は、複数の生薬を漢方理論により平性(体を冷やすことも温めることもない)になるよう組み合わせています。このうち灯盞花とスイテツは、地竜より化瘀・通絡作用が強いのですが、他の生薬でバランスを取って平性になるようにしています。そのため、妊婦の方以外はどなたでも安心して利用していただくことができます。

大浦 「かぎかずらなどの生薬」を構成しているカギカズラ、白僵蚕、苦丁茶、灯盞花の四つの生薬について説明していただきました。これらは頭痛や高血圧、パーキンソン病などに役立つそうですが、それらの症例については次回に詳しくお話しいただくことにします。