董和先生に聴く
野ぼたん科の植物(下)

聞き手:大浦純孝 社長


大浦 前回に「野ぼたん科の植物」が喘息・咳の秘草であるということを教えていただきました。今回は、風邪の咳や喘息のときに出る痰の対処方法や、漢方でいう広義の「痰」などについてお話ししていただこうと思います。

化痰の妙薬

董和 漢方でいう痰の定義については後ほど説明するとしまして、まず、喘息や咳の時に呼吸困難や胸苦しいといった症状がなくて、痰が多く出る場合には、化痰(体内に停滞した水分を除去する)作用のある「穿山龍(せんざんりゅう)」という植物をお勧めします。

大浦 どのような植物でしょうか。

董和 ヤマイモ科の植物です。その根を食用にし、別名「穿山薯預(せんざんしょよ)」ともいわれます。和名はウチワドコロ(団扇野老)といいます。化痰作用の他に活血(血の巡りを良くする)作用もあります。

大浦 食用になることは以前にお聞きしましたが、生で食べられるのですか。

董和 いいえ。アクが強くてとても生では食べられません。ただ、アク抜きをすれば食べられます。もし、まちがってアク抜きしないで食べてしまうと、口の中から舌、のど、食道にまで刺激が広がり、激しい痛みが起こります。そのため穿山龍を組み合わせて創られているものでも、なるべく噛まずにそのまま飲み込んでください。


「痰」の病証

大浦 ところで、“化痰”という言葉に使われている「痰」ですが、これは漢方医学における独特の概念ですね。痰には狭義と広義の意味があるといわれます。今の話のように気道から分泌される痰は「狭義の痰」を指すと思いますが、「広義の痰」について教えていただけますか。

董和 痰というのは臓腑機能の失調や低下で生じる病理的な代謝物のことです。その発生原因には、主に脾・肺・腎あるいは全身の経絡などが関与しています。これらの機能低下によって水分代謝障害が起こり、体に余分な水分が停滞し、これが凝集・濃縮されて生じたものが、広義の痰とされています。この痰は「気」とともに経絡を介して全身至るところに影響を及ぼし、さまざまな病証を引き起こします。

大浦 「痰」という症状が出やすい体質の人というのはわかるものですか。

董和 舌を見ればよくわかります。舌にネバネバした苔がたくさんある人、あるいは舌の肉が厚いとか歯形がある人は、痰ができやすい体質といえます。そして、その他の具体的な病症と考え合わせれば、痰がたまった場所もわかります。

大浦 それは例えばどのような症状でしょうか。

董和 咳や喀痰(多量の痰が出る)、呼吸困難(喘息や急・慢性気管支炎、肺炎などによる)があれば「肺」に痰がたまっていると考えます。「心」では動悸、脳卒中などによる意識障害などを、「脾胃」では悪心や嘔吐を、「頭」ではめまいを、「胸脇部」では胸脇痛や胸苦しさを、「四肢」ではしびれや疼痛を、「経絡」では甲状腺腫や慢性リンパ節腫大、梅核気(ノドの閉塞感)などを引き起こします。これらを「痰の病証」といい、いずれも「穿山龍などの生薬」で対応できます。


穿山龍などの生薬

大浦 先生が創られた「穿山龍などの生薬」は、どのような生薬を組み合わせておられるのでしょうか。

董和 穿山龍を主に、天竹黄(青皮竹)、オオベニミカンの皮、枳実(ダイダイ)、釣鐘人参、山梔子(クチナシ)、大棗(ナツメ)を組み合わせています。特に天竹黄は、穿山龍の化痰作用をより強化するために加えています。

大浦 天竹黄はイネ科のマダケや青皮竹などに寄生する竹黄蜂により穴が開けられ、その傷から竹の幹内に分泌された液が竹の中で乾燥して固まった塊状のものですね。

董和 ええ。しかし、このように自然にできるものが希少なため、今では人工的に竹を加熱して節間内に竹汁を出させ、それが自然に凝固したものを代用しています。

大浦 天竹黄は天竺黄ともいうようですが、どのような作用があるのですか。

董和 天竹黄は清熱(体の熱を取る)化痰(痰を除く)定驚(不安感を解消する)などの作用があります。熱病で意識が混濁したときや、脳卒中で痰が胸につまって苦しいとき、また癲癇や小児のひきつけなどにも用います。穿山龍に天竹黄を組み合わせることで、様々な痰の病証に対応することができます。

大浦 舌にネバネバした苔がある痰の病証には、ともかく使ってみるといいということですね。

董和 喘息や咳とともに出る痰はもちろんのこと、自律神経失調症による不眠や動悸、めまいにもお勧めできます。また、ネバネバの舌苔があり胃腸が弱い方の不眠症にもかなり効果があります。

大浦 穿山龍などの生薬については、人間医学社では風邪が長引いて午後から微熱が出てくるという症状に用いて、とても良い結果が出ています。もちろん舌の状態を確認した上で使っています。
ところで、こういった微熱に対して解熱剤とか抗生物質は効かず、今の医学では如何ともしがたいところがあり、自然によくなるのを待つだけというのが現状です。現代医学で原因不明とされている症状の中には、痰に起因するものがかなり含まれているのではないでしょうか。そこに痰の概念を導入すれば、もっと多く治る病気もあると思うのですが。

董和 おそらくそうだろうと思います。


甲状腺疾患

大浦 痰の病証については、ほとんどの人が知らないと思います。どのように現代の言葉で説明していけばよいのか、今だによくわかりませんが、もっと私たちも機会あるごとに紹介していかなくてはいけませんね。それはともかく、先の経絡に痰がたまったときに現われる甲状腺の病気にも「穿山龍などの生薬」は効果があるのでしょうか。

董和 はい。甲状腺機能亢進症や甲状腺瘤にもお勧めできます。先ほどの話のように、甲状腺の腫れを漢方では癭瘤(えいりゅう)といいます。これは痰と関係がある病気の一つで、痰の塊ともいえます。『中薬大辞典』の穿山龍の項に、甲状腺機能亢進や甲状腺瘤、眼球突出に非常に効果があると書かれています。
また『中薬大辞典』には、穿山龍は化膿性関節炎(主に黄色ブドウ球菌などの細菌が関節に侵入して、関節内が化膿してしまう病気)にも効果があると記載されています。そこには、急性化膿性関節炎の治療に穿山龍を、成人は一日に三両(90g)、小児の場合は一両(30g)の量を煎じて投与したところ、八例中五例が快癒したとあります。その中の六例では膿毒症を併発し、抗生物質では抑えられなかったのが、穿山龍を併用したら良い治療結果が得られた、とあります。

大浦 こういった症状にも穿山龍などの生薬が期待できるのですね。

董和 ええ。ある薬局の先生からは、関節を手術した後に感染症を起こして悩まれているという患者さんに「穿山龍などの生薬」と「苦地胆植物」を勧められたところ見事に完治した、という報告をいただきました。

大浦 穿山龍は水毒(水の代謝異常の状態)体質の方であればお勧めできますね。喘息や咳の時に出る痰をはじめ、めまい、不眠、動悸、甲状腺機能亢進症や甲状腺腫、関節炎などがある方で、舌の苔がネバネバしていればお勧めできるということですね。たとえ、現在はこのような病証がなくても、ネバネバした舌苔があれば、水毒体質の改善のために勧めることもできるのでしょうか。というのも、先生に教えてもらったことですが、動物実験で穿山龍は高脂血症に非常に効果があったそうですね。ネバネバした舌苔があるというだけでも使えるわけですか。

董和 使えます。今、何も症状がなくてもネバネバの舌苔があるということは、水毒体質であると考えられますから油断は禁物です。そのためにも穿山龍などの生薬で水毒体質を改善されることをお勧めします。

肺  炎

大浦 よくわかりました。ではもう一度、野ぼたん科植物の使い方について教えてください。風邪や喘息をこじらせて肺炎になった場合には、どのように対処すればいいのでしょうか。

董和 まず、咳には野ぼたん科植物が有効です。そして、肺炎に対しては「苦地胆植物」を合わせて用います。この中の主役である苦地胆(くじたん)は、味がとても苦いので「苦草」とも呼ばれ、中国では化膿性炎症によく使われています。肺炎だけではなく、多くの急・慢性の炎症に効果があり、「漢方の抗生物質」といわれています。

大浦 それはいいですね。抗生物質は副作用があり、多くの慢性炎症には継続的に投与することができません。その点、植物で抗生物質とよく似た作用があるものなら、副作用もなく、長期にわたって食べても安心で、とてもありがたいですね。

董和 苦地胆は、四国や九州、朝鮮半島、中国に分布するシソ科の多年草で、筋骨草、キランソウ、ジゴクノカマノフタなどの別名があります。また、日本のある地方では「医者倒し」とも呼ばれています。全草にはフラボノイドのルテオリン、タンニン、ステロイドのシアステロンなどが含まれ、鎮咳、去痰、抗菌、止瀉などの薬理作用があります。漢方的には清熱(体の熱を取る)涼血(熱で出血しやすい状態を改善する)消腫(腫れ物を消す)解毒などの作用があり、各種の炎症によく用いられる薬草です。

大浦 漢方の抗生物質ということですから、体のどこに炎症を起こしていても役立つわけですね。

董和 はい。歯周病や歯の痛み、扁桃腺炎、咽喉炎、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、胆嚢炎、膀胱炎、淋病、中耳炎、外耳道炎、乳腺炎、化膿性の皮膚病、赤ちゃんの湿疹、痔の腫れなど、効用は多岐にわたっています。その他、吐血や鼻血などの出血性疾患にも用いられます。


慢性気管支炎

大浦 つまり喘息や咳には、野ぼたんにミカンの皮と蛇胆(蛇の胆)を組み合わせた「野ぼたん科植物」を使うといいということですね。

董和 喘息の場合は、発作期間や緩和期間にかかわらず咳が出なくなるまで、ずっと食べ続けていただければ根治できると思います。もし、喘息の発作が起きて呼吸困難や胸が苦しい、痰が切れないといった症状があれば、前回お話した「瓜楼(かろう)の果実などの生薬」を合わせて食べられることをお勧めします。また、熱があったり黄色い痰が出るような場合には、肺に炎症があると考えられますから苦地胆植物を併用します。

大浦 アレルギー性喘息や急性気管支炎、慢性気管支炎などにも、同じように対応できるのでしょうか。

董和 アレルギー性喘息には野ぼたん科植物が有効だと思います。しかし、慢性気管支炎に対しては、症状の緩和は期待できますが、根治はなかなか難しいと思います。

大浦 もともと慢性気管支炎は難治性疾患と考えられていますから、その根治となると一筋縄ではいかないでしょうね。

董和 慢性気管支炎は慢性閉塞性肺疾患(COPD)に分類され、気道の狭窄や肺の過膨張、呼気延長、残気量の増加などがみられます。特に男性に多く、冬期に増える傾向があります。適切な治療を行なわずにいると重症化し、さらに肺性心へ進行する場合もあるので注意が必要です。

大浦 肺性心というのは、肺の病気が原因で心臓の右心室の心筋が肥大し、心臓の働きが悪くなって心不全などを起こすものですね。主に慢性気管支炎や肺気腫などが長引いたために起こることが多いようですね。

董和 そうです。慢性気管支炎は、持続性あるいは反復性の痰を伴う咳が少なくとも過去二年以上、毎年三ヵ月以上続く状態をいいます。このように、ただ咳や痰が出るだけといっても油断はできません。風邪を引いた後に咳が長引いて止まらない場合には、野ぼたん科植物を早めに食べていただき、完全に治るまで続けてください。

大浦 やはり軽い咳でも油断はできませんね。一旦咳が慢性化したら治療が大変難しくなりますね。

董和 慢性気管支炎はゆっくりと進行するので、適切な治療さえ行なえばそれほど問題はありません。ですから普段から風邪を引かないように用心して、もし咳や痰が出たら「野ぼたん科植物」に「瓜楼の果実などの生薬」を合わせて、また黄色い痰が出るようなら「苦地胆植物」を合わせて対応してください。体力が低下しているときには「冬虫夏草」を、口の渇きや痰がからんで出にくいときには「紅景天(こうけいてん)植物」などを合わせていきます。
また、風邪を引きやすい体質であれば「熊柳などの生薬」を利用していただけば、肺性心など重い病気へ進行する心配が減ります。

大浦 寒い季節には風邪やインフルエンザが増えてくると思いますが、罹ったかなと思った時には以前お話していただいた「馬鞭草(ばべんそう)などの生薬」や「人参木植物」などが役立ちますね(平成二十一年二~四月号参照)。そして、咳には「野ぼたん科植物」、痰が多く出るようなら「穿山龍などの生薬」、肺炎があれば「苦地胆植物」という具合に合わせて対応していけばいいのですね。
また、喘息や慢性気管支炎も野ぼたん科植物を中心に他のものを合わせていけば、それぞれの病証に役立つことがよくわかりました。野ぼたん科の植物は婦人病にも役立つということですので、またお話をお願いしたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。

(了)